こんにちは。
北海道大学調和系工学研究室(川村秀憲教授、横山想一郎助教)です。
北大キャンパスでは、雪解けが進み、ようやく土や新芽が顔をのぞかせる季節となりました。
来週には学位記授与式を迎え、研究室の卒業・修了生がそれぞれ新しい環境へ巣立っていきます。
長い冬の終わりを感じるこの頃ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
本日のメルマガでは、引き続き『DoconReport Vol.219 2025』に掲載された川村教授のエッセイ「AIが自律する時、人間の価値はどこにあるのか?」をご紹介します。
今回は、「人にできることAIにできないこと」と題し、AIエージェントの発展に伴う人間とAIの役割分担について考察しています。
身体性や主観的な感覚(クオリア)といった人間特有の特性に着目し、人間とAIをつなぐインターフェース設計の重要性について論じています。
ご興味のある方はぜひお読みいただければ幸いです。
それでは、本日もどうぞよろしくお願いいたします。
2026年3月19日配信
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■ 本日のTopics
【1】川村教授のエッセイ
【2】調和系工学研究室WHAT’S NEW
【3】学会参加レポート
【4】受賞リポート
【5】人工知能・ディープラーニングNEWS
【6】調和系工学研究室関連企業NEWS
【7】季刊『雫』「今回のAI一茶くん」
【8】AI川柳
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【1】川村教授のエッセイ
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「AIが自律する時、人間の価値はどこにあるのか?」
3.人にできることAI にできないこと
AI エージェントが高度化し、社会に浸透するに従って、人間に求められる能力も必然的に変化する。
これまで社会における知的労働のほとんどは人間が担ってきたが、今後はAI との役割分担を否応なく意識する必要がある。
我々人間は、AI には原理的に困難で、人間にしかできない領域で能力を発揮することが、自らの社会的価値を高める上で不可欠となるであろう。
では、指数関数的な進歩を遂げるAI でさえ、本質的に到達できない人間の能力とは何であろうか。その問いに明確に答えるのは困難であるが、現在のAI アーキテクチャの限界から推察される考察を論じる。
結論から述べると、現在のAI、特にLLM の仕組みを前提とするならば、人間には容易でAI には本質的に不可能なことの代表例は、「おいしい」という感覚を主観的に判断することである。
幼児でさえチョコレートを食べれば、その快感を「おいしい」という言葉で表現できる。個人の好みに差はあれど、人間にとって「おいしい」という感覚は、一口食べれば直ちに生じる極めて直接的な体験である。
この「おいしさ」とは何か。辞書で「おいしい」を引くと「食べ物の味がよい。美味だ。」と定義されている。
次に「美味」を調べてみると、「うまい味。うまい飲食物。また、味のよいさま。」という定義である。
さらに「うまい」を調べると「食物などの味がよい。おいしい」となって、「おいしい」へと定義が循環してしまう。
言語的な定義だけでは、美味しさの本質には到達できない。現在のLLM は、膨大なテキストデータから単語の統計的な連鎖パターンを学習し、次に来る確率が最も高い単語を予測することで応答を生成する。
これは、いわば辞書の定義を巡るのと同じプロセスであり、言語記号の操作に過ぎない。
従って、仮にAIが物理的に味覚センサーを持ったとしても、記号処理の連鎖から「おいしい」という主観的な質的体験、すなわちクオリア(Qualia)を生成することは原理的に困難である。
人間が「おいしい」を瞬時に判断できるのは、それが生命の維持と繁栄に直結する、身体に根差した評価システムだからである。
栄養価が高く、安全な食物を「快」と感じ、それを積極的に摂取した個体が生存競争を勝ち抜き、その形質を子孫に受け継いできた。逆に、腐敗物や毒を「快」と感じる個体は淘汰されたであろう。
つまり「おいしさ」とは、数百万年の進化を経て我々の身体に刻み込まれた、生存のための生物学的プログラムなのだ。
この身体性(Embodiment)に根差した感覚的知性を、テキストデータのみを学習する現在のAI が獲得するのは、そのアーキテクチャ上、極めて難しいと言わざるを得ない。
この議論は「おいしい」という感覚に留まらない。「安心だ」という感覚も同様である。
危険のない安らかな環境下で生じるこの感覚は、心身の回復と生存に不可欠な生理的状態であり、単なる言語概念ではない。
幸福感、好奇心、恐怖、怒り、悲しみといった人間の多様な感情もまた、身体的な反応と不可分に結びついたクオリアである。
このような身体性に根差した感覚が求められる役割は、今後ますます重要になる。
対人サービスはもちろんのこと、一見すると論理的思考が支配するように思えるIT システムの開発分野でさえ、その重要性は増している。
従来、システム開発は要求定義通りの機能実装や、バグのない安定稼働、セキュリティの担保が最優先されてきた。
しかし、AI の支援によって機能実装のコストが劇的に低下する未来においては、システムの価値は「いかに人間にとって快適で、直感的に使え、安心感を与えられるか」というユーザーエクスペリエンス(UX)の質へとシフトしていく。
この「使いやすい」「心地よい」「信頼できる」といった感覚は、まさに人間の身体的・感情的判断が不可欠な領域であり、優れたUX を設計できる人材の価値は飛躍的に高まる。
IT システム開発は一例に過ぎない。
AI が社会のあらゆるサービスに組み込まれるにつれて、人間とAI が接するインターフェースの設計、すなわちヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)の重要性が増大する。
AI が論理と計算を担い、人間がその出力と人間の主観的世界との間を翻訳・媒介する。
優れたインターフェースとは、この翻訳を円滑にし、AI の能力を人間の幸福に直結させるための架け橋である。
その架け橋を設計する上で、人間の身体的・感情的知性は、これまで以上に重要な役割を担うことになるのである。
(『DoconReport Vol.219 2025』に掲載)。
【2】調和系工学研究室WHAT’S NEW
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◇ 東京新聞に川村教授のコメントが掲載されました
2026年2月3日付、東京新聞に川村教授のコメントが掲載されました。
記事「選挙の投票先、AIに聞いてみたら 能力は「大学を首席卒業した優秀な部下」並みらしい…利用上の注意は」では、衆院選の投票先をAIに相談する利用が広がる中、AIの回答が与えられた情報によって変わる可能性や、誤情報のリスクがあることを検証しています。
記事の中で川村教授は、AIを正しく使用し、その回答は参考として利用する必要があると指摘しています。
ご興味のある方はぜひお読みいただければ幸いです。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/466226
◇ 東京新聞に川村教授のコメントが掲載されました
2026年3月1日付、東京新聞に川村教授のコメントが掲載されました。
記事「安野貴博氏の『AIあんの』、特定の質問に返答しない設定だった 『原発』『花粉症』…なぜそれがNGワード?」では、チームみらい党首の安野貴博氏が2024年の都知事選で、人工知能(AI)を活用した返答システムに特定の話題を答えさせない「NGワード」を設定していたことについて、言及しています。
ご興味のある方はぜひお読みいただければ幸いです。
◇ 「俳句対局 龍天王決定戦」に「AI一茶くん」が出場します
2026年3月29日(日)、NTTドコモ松山ビル(愛媛県松山市)にて開催される「俳句対局龍天王決定戦」に「AI一茶くん」が出場します。
当日はエキシビジョンマッチとして、人類と「AI一茶くん」開発チームによる俳句対局が行われます。
お近くの方はぜひお越しいただければ幸いです。
日時:2026年3月29日(日)午後1時~
会場:NTTドコモ松山ビル1階 特設会場(愛媛県松山市)
料金:観覧無料(申し込み不要)
主催:愛媛県現代俳句協会
【3】学会参加レポート
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◆ 「通時コーパス」シンポジウム 2026にて研究発表を行いました
2026年3月7日に国立国語研究所(東京都立川市)/オンライン(ハイブリット)にて開催された「通時コーパス」シンポジウム 2026にて研究発表を行いました。
[「通時コーパス」シンポジウム 2026]◆ 山下 倫央, 松本 大誠, 横山 想一郎, 川村 秀憲: 国会会議録コーパスを対象とした大規模言語モデルによる法案審議における検討観点の抽出
本発表では、国会会議録コーパスを利用して、法律の審議で検討すべき観点を自動的に見つける方法を提案する。
国会会議録コーパスには、実際の国会審議における議員の発言や議題などの情報が体系的に記録されており、本研究では国会審議の議論の特徴を分析するためのデータとして活用する。
具体的には、実在の議員の立場や役割をもとに複数のLLMエージェントを構築し、法案について事前に議論を行わせることで検討観点を抽出する。
実際の会議録と比較した結果、実際に議論された観点を再現できることに加え、新たな観点を提示できる可能性も確認された。
研究内容にご興味がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ: http://harmo-lab.jp/contact
【4】受賞リポート
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◇ 「観光情報学会第29回研究発表会」にて博士3年の西浦 翼さんが受賞しました
2026年2月27日にアマホームPLAZA(奄美市市民交流センター)にて開催された「観光情報学会第29回研究発表会」において本研究室の西浦 翼さん(博士3年)が「研究発表会奨励賞」を受賞しました。
[観光情報学会第29回研究発表会][観光情報学会 表彰一覧]
◆ 西浦 翼, 横山 想一郎, 山下 倫央, 川村 秀憲:「路線バスにおける乗降人数推定精度向上手法が乗車区間別OD推定に与える効果の検証」
路線バス車内カメラ画像を用いた乗客 OD 推定では,各バス停における乗降人数のカウント精度に加え,乗車人物と降車人物の対応付けに基づく乗車区間別の推定精度を評価することが重要である.
本発表では,新たな手法やシステム開発は行わず,既存 OD 推定システムに含まれるマッチングモジュールを用いて,個人識別の精度向上手法および乗降判定の精度向上手法が出力する乗降人物の軌跡に対するマッチング評価を実施する.
具体的には,乗車・降車として抽出された人物軌跡を入力とし,同一人物の対応付け結果を基に乗車区間別の推定結果を算出し,正解データと比較して精度を定量化する.
さらに,バス停別カウント評価との対応関係を整理し,バス停別での改善が最終出力である乗車区間別推定にどの程度寄与するかを示す.
― 西浦さんのコメント
この度,鹿児島県奄美市で開催された観光情報学会第29回研究発表会にて,研究奨励賞を頂きました.
学位論文の執筆において未検証になっていた部分に関して行った追加実験について発表しました.
奄美大島は札幌からの直行便が無いため飛行機を乗り継ぎ,電車やバスにも長時間揺られ,兎角厳しい旅でした.
参加者の多くがオーバーツーリズムや地域PRなどをテーマにしている中で,私の発表は交通および路線バスをテーマにしていました.
観光の文脈においては中心的な内容ではありませんでしたが,観光情報に関連する技術として有為なものであると認めていただけて光栄です.
研究にご協力いただいた株式会社シーズラボ様に,深く感謝申し上げます.
研究内容にご興味がありましたら、下記フォームからお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ:http://harmo-lab.jp/contact
ご意見・ご感想もお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
【5】人工知能・ディープラーニングNEWS
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★ 「Claude Code」に新機能 “人間が見逃す”バグも自動検出(itmediaより)
AI開発企業の米Anthropicは、AIコーディング支援ツール「Claude Code」に、AIがバグを自動で検出する機能「Code Review」を追加したと発表した。
AI開発企業の米Anthropicは3月9日(現地時間)、AIコーディング支援ツール「Claude Code」に、AIがバグを自動で検出する機能「Code Review」を追加したと発表した。開発者が修正したコードの統合を依頼するプルリクエストに対し、自律的にタスクをこなすAIエージェントがレビューする。
★ GoogleマップがGeminiで進化 AIが複雑な質問に答える「Ask Maps」と3Dナビ「Immersive Navigation」(itmediaより)
米Googleは3月12日(現地時間)、「Googleマップ」の機能を「Gemini」を活用して大幅に刷新したと発表した。 このアップデートでは、地図情報とGeminiを組み合わせ、地図での場所探しをシンプルな会話に進化させる「Ask Maps」と、従来の「イマーシブビュー」をルート案内に特化させて発展させた「Immersive Navigation」を追加した。
【6】調和系工学研究室関連企業NEWS
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★ オンラインセミナー「テンプレートを触って学ぶ UiPath エージェンティック オートメーションの世界」を開催いたします(株式会社クレスコ)
当社は、2026年3月26日(木)にオンラインセミナー「テンプレートを触って学ぶ UiPath エージェンティック オートメーションの世界」を、SB C&S株式会社と共同で開催いたします。
★ 「音声AI×コンサルティング」をテーマにRECORiSの販売を本格展開(ティ・アイ・エル株式会社)
弊社はAI音声ダッシュボード RECORiSを「音声AI×コンサルティング」をテーマに本格展開いたします。 SaaS導入で終わらせず、CRM/SFA/CDP/コミュニケーションツール等と連携し、”録音から活用”までを支援する新しい音声活用モデルを提案します。
★ セキュリティ管理者の統合的なログ管理と監視を革新 網屋「ALog」(株式会社網屋)
網屋の「ALog」は、2024年の完全リニューアルでSIEM(Security Information and Event Management)製品へとパワーアップし、サイバー攻撃の予兆を捉える頼れる存在となった。ALogは統合的なログ管理によるサイバー攻撃の原因や影響範囲の迅速な特定をはじめ、ログ監視による攻撃の検知により、セキュリティ管理者の働き方改革に貢献する。「セキュリティのむずかしいをカンタンに」をコンセプトに開発されたALogは、優れた操作性を備えている点も特長だ。サイバー攻撃が増大し、被害が深刻化する現在において、あらゆる企業のセキュリティ対策に効果を発揮する。
【7】季刊『雫』「今回のAI一茶くん」
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AI一茶くんの対決デビュー戦となった、NHK「超絶 凄ワザ!」への出演を契機に知り合ったマルコボ.コム社が発行している「季刊『雫』」にAI一茶くんの俳句が掲載されています。
この中の「今回のAI一茶くん」というコーナーでは、素性を隠して掲載されたAI一茶くんの句を読者が当てるという企画が行われています。
AI一茶くんが詠んだ句、そしてその句が獲得した得点、AI一茶くんの俳句を見抜いた人数をご紹介したいと思います!
兼題「秋刀魚」(季刊『雫』2025年11月15号)
秋刀魚焼く匂ひの中の一家族
AI一茶くんは、まだ良い俳句を自分で選ぶことができないので、AI一茶くんの詠んだ「短日」50句から、編集室が選んだ一句です。
この句は2点句となり、2名の方がAI一茶くんの俳句を見抜きました。
AI一茶くんの句を選抜した編集室の方々は、「昭和の一場面」を想像する句が多くて、みなさん選びきれなかったかな?とのことです。
次回の兼題は「枯野」です。
AI一茶くんの句は何点獲得できるのか、そして見抜ける方はいらっしゃるのか、お楽しみに!
次回は5月の発行となります。
マルコボ.コムオンラインショップ( https://marukobo.shop-pro.jp/ )からも購読のお申し込みができますので、ご興味がある方はぜひご覧ください。
【8】AI川柳
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調和系工学研究室では、毎日新聞社「仲畑流万能川柳」や第一生命保険「サラリーマン川柳」を学習用の教師データとした「AI川柳」に取り組んでいます。
2020年3月までの1年間「NHK総合 ニュースシブ5時」にて、その週の話題のニュースのキーワードをお題に、バーチャルアナウンサー「ニュースのヨミ子」さんが詠んでいたAI川柳も、本研究室が開発した人工知能システムです。
多くの皆さんに楽しんでいただけるよう、2020年6月にAI川柳のTwitterアカウント( https://twitter.com/ai_senryu )を開設いたしました。
AIには詠んだ句に対する「良し悪し」の感覚はありません。そのため、人間がどのように感じ、どのような情景を思い浮かべるかにより、AIが詠んだ句に意味が生じてきます。
AIが詠んだ句に共感していただけましたら大変うれしく思います!
★ お題「春」(3月9日投稿)
再会への期待や少しの感慨が感じられる温かい一句(感想は #ChatGPT と作成)。
★ お題「春」(3月12日投稿)
春が訪れたものの、裏山にはまだ雪が残り、季節が行きつ戻りつしている様子が感じられる一句(感想は #ChatGPT と作成)。
【ご寄附のお願い】
人工知能によるイノベーションでより素晴らしい世界を実現することが、私たち調和系工学研究室の使命であると考え日々研究に取り組んでいます。
大学での研究活動には、研究に必要な機器の整備のほかにも、学生の学会への参加や論文投稿など研究費が欠かせません。
私たちの取り組みにご賛同いただけ、応援のご寄附を賜れましたら大変心強く、研究を続けるうえで大きな励みとなります。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
調和系工学研究室 教授 川村 秀憲
[北海道大学奨学寄附金制度について](本学への寄附金については、税法上の優遇措置の対象となります)お問い合わせ先:http://harmo-lab.jp/contact
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
◇ 次号は、2026年4月3日に配信する予定です。
◇ メールマガジンのバックナンバー
http://harmo-lab.jp/?page_id=2918
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横山 想一郎助教
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▽AI一茶くん
▽調和系工学研究室AI川柳
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