こんにちは。
北海道大学調和系工学研究室(川村秀憲教授、山下倫央准教授、横山想一郎助教)です。
今回のメルマガでは、googleが開発した新しいAI技術「Titans(タイタン)」について、調和技研エンジニアブログをもとに紹介します。
「Titans」は、「人間の記憶の仕組み」をヒントに開発されたAI技術です。
人間の脳のように「短期記憶」と「長期記憶」を使い分け、さらに“驚き”や“意外性”のある情報を優先的に「長期記憶」に追加することで、セッションを越えた知識の共有や、継続的な学習を行うことができます。
2024年12月31日にGoogle Researchから発表された研究論文「Titans: Learning to Memorize at Test Time ( https://arxiv.org/pdf/2501.00663 ) 」の内容をもとに分かりやすく解説していますので、興味のある方はぜひお読みになってください。
それでは、本日もどうぞよろしくお願いいたします。
2025年8月1日配信
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■ 本日のTopics
【1】調和技研エンジニアブログ内容紹介
【2】調和系工学研究室WHAT’S NEW
【3】研究室に関連する企業・ベンチャー等のニュース
【4】人工知能・ディープラーニングNEWS
【5】調和系工学研究室関連企業NEWS
【6】AI川柳
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【1】調和技研エンジニアブログ内容紹介
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― Titans – Googleが描く「長期記憶型AI」
Titans: Learning to Memorize at Test Time を斜め読み
今の主流のAI(Transformer)は、すごく賢いのですが「長い文脈や情報」を扱うのが苦手です。情報が長くなると計算に時間がかかりすぎてしまい、うまく処理ができなくなります。
一方、人間はTransformerでは処理が難しいような長文であっても、情報の洪水に飲み込まれることなく、自然に理解することができます。これは、人間の脳が「短期記憶」と「長期記憶」を使い分けて情報を管理して、すぐに忘れてもいいことは短期に、大事なことは長期に覚えるようになっているためです。
Titansは、こうした人間の「大事な情報だけをうまく覚える仕組み(長期記憶)」をAIに取り入れています。これにより、長い文脈や情報を効率よく理解し、必要なときに思い出せるようになりました。
■ Titansの記憶のしくみ
Titansは、人間のように短期記憶と長期記憶の両方を組み合わせた新しいアーキテクチャです。以下の3つのコンポーネントで構成されています。
1. Core(短期記憶)
現在の話の流れを理解するために使う記憶です。会話の直前の内容など、一時的な情報を処理します。
2. Contextual Memory(長期記憶)
過去の大事な情報はここに保存し、必要なときに思い出します。
新しい情報が来たら、「驚きメトリック」と呼ばれる人間の脳の働きを模倣した仕組みにより、どれだけ予想外かを判断し、大事そうな情報だけを選んで記憶を更新します。人間がメモを取る感覚に近いです。
3. Persistent Memory(永続記憶)
もともとAIが知っていること(一般常識や知識)を保存します。ここは使うだけで、途中で書き換えたりはしません。
特に、「短期的な情報」と「長く覚えておくべき情報」をうまく使い分けられるのが特徴です。
■ Titansが働くときの流れ(イメージ)
ユーザーが情報を入力すると、まずAIが「もともと持っている知識(永続記憶)」を使って背景を理解し、次に「短期記憶」で現在の状況を処理します。さらに「長期記憶」に保存されている過去の大事な情報と照らし合わせて、必要なら「驚きメトリック」に基づいて長期記憶を更新し、最適な答えを出します。
例えるなら、メモ帳に書いたこと(短期記憶)は時間が経つと消えますが、大事なことはノートに書いて残すのが長期記憶です。ノートとは別に、もともと持っている百科事典のようなものが永続記憶です。この3つを使ってAIが柔軟に考え、答えを出してくれます。
Titansは、短期・長期・永続の3つの記憶を使い分けて、より人間らしく「覚えて考える」ことができるAIです。長い話や複雑な情報にも対応できる、次世代のAI技術です。
■ Geminiとの使い分け
Geminiは、大規模Transformerをベースにした、一気に長い話を読み取るのが得意なAIです。ものすごく長い文章でも、まとめて一度に理解できるように作られています。
全部の情報を一気に読み込んで、「その場で理解」するスタイルなので、ニュース記事、レポート、会議録など、その場でまとめて処理したいときに便利です。文章が長くなるほど、処理に時間や計算がかかりやすい弱点があります。また、記憶の構造は一時的で、入力後には破棄されます。
Titansは、覚えて考えるのが得意なAIです。重要な情報を覚えておいて、あとで思い出しながら使うことができます。
人間のように「これは大事そうだな」と判断して、記憶として保存し、必要になったときに取り出すので、会話や作業が何度かに分かれる場面でも、過去のことを覚えて活用できます。ただし、どの情報を覚えるか、どう管理するかが難しく、工夫が必要です。
このように、Geminiは「一気にすべてを処理したい」場合に強く、Titansは「場面をまたいで意味や知識を記憶したい」「セッションを超えた知識再利用をしたい」ときに強いAIです。
■ 活用が期待される分野
Titansのように「覚えて考える」力を持つAIは、以下のような分野での活躍が期待されています。
- 文章の理解や要約
長い文章を読んで内容をまとめたり、質問に答えたりするときなど、長い文脈を必要とするタスクに役立ちます。例えば、本や会議の記録を要約したり、文章の中から答えを見つけたりするときなどです。 - データの流れを予測
時間の流れに沿ったデータ(株価やセンサーの数値など)を見て、未来を予測するような場面で活躍します。例えば、天気予報、株の動き、機械の異常を予測するときなどです。 - ゲノム(DNA)の分析
とても長いDNAの並び(配列)を読み解く作業にも使われます。例えば、病気の原因を探したり、遺伝子の働きを理解する研究に役立ちます。
Titansは、「長くて複雑な情報」を覚えながらうまく処理するのが得意なので、長い文脈、データ予測、DNA解析など、たくさんの情報を扱う分野での活躍が期待されています。
■ まとめ:Titansは「覚えて活かす」新しいAI
Titansは、人間のように「短期記憶」と「長期記憶」をうまく使い分けることで、以前の会話や出来事を覚えて、あとで役立てることができるAIです。
これまでのAI(たとえばGemini)は、「その場で長い文章を一気に読んで理解する」ことが得意でした。
それに対してTitansは、「前に話したことや読んだ内容を覚えていて、あとでまた使う」ような、「持続的な知性」に近い使い方ができます。
このような仕組みによって、セッションを越えた知識共有など、従来のモデルの限界を克服し、さまざまな分野での応用が期待されています。
参考論文:Titans: Learning to Memorize at Test Time
北大発認定スタートアップである株式会社 調和技研は同社webサイトにて、エンジニアによるブログを公開し、AIの最新動向、事例、ノウハウなどを紹介しています。
上記の文章は、ブログ記事「Titans – Googleが描く「長期記憶型AI」 :Titans: Learning to Memorize at Test Time を斜め読み」(2025年7月23日公開)をChatGPTを使用して、分かりやすく要約したものです。
より詳しく知りたい方は、株式会社 調和技研webサイトのブログよりお読みいただけます
【2】調和系工学研究室WHAT’S NEW
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◇ アトツギイノベーションカレッジにて川村教授が講師を務めます
2025年9月16日(火)~2026年1月23日(金)に計7回、経済産業省 北海道経済産業局 会議室/オンライン(ハイブリット)で開講される「アトツギイノベーションカレッジ」にて、川村教授が講師を務めます。
本カレッジは、新しい取組にチャレンジするアトツギを対象に、短期間で事業を成長させる支援プログラムで、全7回の連続講座となります。
事業を継ぎたい方、または継ぐ可能性のある方、事業承継から概ね5年以内の現経営者の方を対象に行われます。ご興味のある方のご参加をお待ちしております。
詳細およびお申し込み方法は下記よりご覧いただけます
https://www.hkd.meti.go.jp/hokik/20250730_2/index.htm
川村教授は、第3回(10月30日(木)13:30~17:15)に登壇します。
テーマ:「自身が取り組むべき新事業や挑戦を具体化する~AIとの共存~」
第一部:北海道大学 教授 川村 秀憲 氏
第二部:(株)いなほコンサルティング 代表取締役 笠原 秀紀 氏
◇ SBIR研究開発プロジェクト公開報告会に山下准教授が登壇しました
2025年7月22日に、札幌駅前ビジネススペース2A/オンライン(ハイブリッド)にて開催された「令和7年度第1回SBIR研究開発プロジェクト公開報告会 中小建設業が展開する除雪イノベーション ―ICTを活用した延長雇用の拡大と官民連携―」に、山下准教授が登壇しました。
調和系工学研究室は株式会社堀口組と共同研究を行い、AIを活用した除雪の出動判断支援技術を開発しています。本報告会で山下准教授は「AI/IoT を活用した雪見出動の省人化」と題して発表を行いました。
詳細は下記よりご確認いただけます
https://h-sangakukan.jp/events/4877
【3】研究室に関連する企業・ベンチャー等のニュース
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◇ 日本経済新聞にて「Aill goen(エールゴエン)」を取り上げていただきました
2025年7月18日付、日本経済新聞にて、株式会社Aill(エール)の開発・提供する企業専用AI恋愛ナビゲーションアプリ「Aill goen(エール ゴエン)」が株式会社トワライズに導入されたことについて、取り上げていただきました。
「Aill goen」は、共働き・共育ての価値観に賛同し実践する企業の独身従業員専用のAI恋愛ナビゲーションアプリです。導入企業に所属する独身者のみが利用できる福利厚生サービスとして、現在1400社を超える企業に導入されています。
川村教授は「Aill goen」の開発に携わり、現在、株式会社Aillの社外取締役をつとめています。
[日本経済新聞][株式会社Aill]
[Aill goen]
◇ NIKKEI Digital GovernanceにてAWLを取り上げていただきました
2025年6月20日付、デジタル・AI専門メディア「NIKKEI Digital Governance」にて、AWL株式会社の提供する、万引きを人工知能(AI)で検知するカメラシステムについて取り上げていただきました。
このシステムを用いた万引き抑止ソリューションは、実証店舗で万引被害額の8割削減に成功しており、今夏から、ドラッグストアチェーン サツドラ(株式会社サッポロドラッグストアー)に導入されています。
[AWL株式会社(北大発認定スタートアップ)]
【4】人工知能・ディープラーニングNEWS
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★ Google、検索を“秘書化” Gemini 2.5 Pro+Deep Search+自動ビジネス電話で情報収集を時短(ledge.aiより)
Googleは2025年7月17日(米国時間)、検索サービス「Google Search」に新たなAIエージェント機能を導入すると公式ブログで発表した。
★ povo2.0アプリで「GPT-4o」「o3-mini」が利用可能に 新機能「povo AI」 追加料金・回数制限なし(itmediaより)
KDDIと沖縄セルラーは7月23日、オンライン専用プラン「povo2.0」の契約者にAIモデルが使える機能「povo AI」を無料提供すると発表した。povo2.0の契約者ならば、追加料金・回数制限なしで「GPT-4o」や「Perplexity Sonar Pro」などをpovo2.0アプリ内から利用できる。
★ 人型ロボ、自力でバッテリーを交換 「24時間365日連続稼働」うたう 中国ロボット企業が動画公開(itmediaより)
中国ロボット企業のUBTECH Roboticsは、自律的にバッテリーを交換できる産業用人型ロボット「Walker S2」の映像を公開した。
★ Google DeepMind、古代碑文を復元するAI「Aeneas」を発表(itmediaより)
米Google DeepMindは7月23日(現地時間)、断片的な古代碑文を文脈化するためのAIモデル「Aeneas」(アイネイアス)を発表した(アイネイアスは、ギリシャ・ローマ神話に登場する放浪する英雄の名)。ノッティンガム大学をはじめとする複数の大学の研究者と共同で開発した。
★ OpenAI、業務自動化を支援する「ChatGPTエージェント」発表(aismileyより)
「ChatGPTエージェント」は、Operatorによるウェブサイト上での操作機能と、deep researchによる情報の分析や要約機能、ChatGPTの賢さと会話能力を組み合わせた一体型のエージェントシステムです。
ビジュアルブラウザー、テキストブラウザー、APIへの直接アクセスなどの様々なツールが搭載されているだけでなく、ChatGPTコネクターの利用も可能です。
【5】調和系工学研究室関連企業NEWS
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★ ニッセイコム、ウイングアーク1st 株式会社が発表した「WingArc Partner Award」にて「Persons of the Year」を受賞(株式会社ニッセイコム)
ニッセイコムでは電子帳票システム「i-Reporter」をご利用中のお客様に対して、BIダッシュボード「MotionBoard」との連携を積極的にPRし、「MotionBoard」の利用を促進しました。
★ AI特化型VCのDEEPCORE、NEDO採択の「大学技術×経営人材マッチング事業」キックオフイベントを8月29日に開催(株式会社ディープコア)
AI特化型ベンチャーキャピタル(VC)である株式会社ディープコア(以下「DEEPCORE」)は、NEDO「大学発スタートアップにおける経営人材確保支援事業(MPM)」の2025年度実施予定先として採択され、その一環として実施する「大学技術と経営人材のマッチング事業」のキックオフイベントを2025年8月29日(金)に開催します。
【6】AI川柳
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調和系工学研究室では、毎日新聞社「仲畑流万能川柳」や第一生命保険「サラリーマン川柳」を学習用の教師データとした「AI川柳」に取り組んでいます。
2020年3月までの1年間「NHK総合 ニュースシブ5時」にて、その週の話題のニュースのキーワードをお題に、バーチャルアナウンサー「ニュースのヨミ子」さんが詠んでいたAI川柳も、本研究室が開発した人工知能システムです。
多くの皆さんに楽しんでいただけるよう、2020年6月にAI川柳のTwitterアカウント( https://twitter.com/ai_senryu )を開設いたしました。
AIには詠んだ句に対する「良し悪し」の感覚はありません。そのため、人間がどのように感じ、どのような情景を思い浮かべるかにより、AIが詠んだ句に意味が生じてきます。
AIが詠んだ句に共感していただけましたら大変うれしく思います!
★ お題「夏」(7月23日投稿)
夏の暑さや解放感、そして少し素の自分と向き合う瞬間が描かれた、爽快さと少しの照れを感じさせる一句(感想は #ChatGPT と作成)。
★ お題「夏」(7月28日投稿)
体調が悪くて空気を読む余裕もない夏の様子、暑さと自分の不調が重なり、どこか力の抜けた人間らしさを感じさせる(感想は #ChatGPT と作成)
【ご寄附のお願い】
人工知能によるイノベーションでより素晴らしい世界を実現することが、私たち調和系工学研究室の使命であると考え日々研究に取り組んでいます。
大学での研究活動には、研究に必要な機器の整備のほかにも、学生の学会への参加や論文投稿など研究費が欠かせません。
私たちの取り組みにご賛同いただけ、応援のご寄附を賜れましたら大変心強く、研究を続けるうえで大きな励みとなります。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
調和系工学研究室 教授 川村 秀憲
[北海道大学奨学寄附金制度について](本学への寄附金については、税法上の優遇措置の対象となります)お問い合わせ先:http://harmo-lab.jp/contact
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
◇ 次号は、2025年8月22日に配信する予定です。
◇ メールマガジンのバックナンバー
http://harmo-lab.jp/?page_id=2918
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調和系工学研究室教員
川村 秀憲教授
山下 倫央准教授
横山 想一郎助教
▽調和系工学研究室HP
▽調和系工学研究室FB
▽川村 秀憲教授FB
▽AI一茶くん
▽調和系工学研究室AI川柳
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