harmolab152/川村教授のIJCAI(International Joint Conference on Artificial Intelligence)2025学会参加レポート、最新の人工知能ニュースをお届けします(2025年9月5日)

こんにちは。
北海道大学調和系工学研究室(川村秀憲教授、山下倫央准教授、横山想一郎助教)です。
残暑が続いておりますが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
札幌では朝晩にようやく涼しさを感じられるようになってきました。

さて、8月にカナダ・モントリオールで開催された、AIのトップカンファレンスIJCAI2025( International Joint Conference on Artificial Intelligence https://2025.ijcai.org/ )に川村教授が参加しました。
今回のメルマガでは、その様子を川村教授が詳しくレポートしていますので、ご興味のある方はぜひお読みになってください。

それでは、本日もどうぞよろしくお願いいたします。

2025年9月5日配信
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■ 本日のTopics
【1】IJCAI2025学会参加レポート
【2】調和系工学研究室WHAT’S NEW
【3】研究室に関連する企業・ベンチャー等のニュース
【4】人工知能・ディープラーニングNEWS
【5】調和系工学研究室関連企業NEWS
【6】AI川柳
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【1】IJCAI2025学会参加レポート
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モントリオールで開催されたIJCAI2025(International Joint Conference on Artificial Intelligence)に参加してきましたのでご報告します。

■ はじめに

IJCAIはAIのトップカンファレンスで、世界中のAI研究者が最新の成果を発表する場です。前回参加したのは2019年のマカオ開催の時だったので、それから随分とAIを取り巻く状況も変化しており、研究者がどのようなことを考えているのかのトレンドを把握するのが目的でした。

たくさんの研究発表や招待講演を聴講したうえでの雑感としてまとめたいと思います。
今、AIといえば、ビッグテックが主導する大規模で高性能なGPUによって作られる生成AIの実用化という大きな流れがありますが、アカデミアの研究トレンドはそれとは少し異なる方向性が確認できました。

■ アカデミアのAI研究に見えた二つの潮流

一つは、ニューラルネットワークに基づくLLMと、記号論理のような論理的思考をどう組み合わせるかという研究です。
LLMがダニエル・カーネマンのいう「システム1(経験や学習に基づく直感的で高速な思考)」を担当し、記号論理や推論が「システム2(論理的、分析的で誤りのない思考)」を担当する前提で、両者を融合させようとしているようです。
複数の研究発表の中で「ニューロシンボリックAI」というキーワードが出てきました。
ビッグテックの大規模な計算量で力ずくでAIを実現するという手法と対比して、アカデミアらしく緻密で理にかなった新しいモデルの方法論を模索しているという印象でした。
また、AIそのものの研究だけでなく、このようなAIを用いて生化学など他分野の研究を加速させていくという研究も複数見られました。

もう一つは、ビッグテックが提供するLLMをそのままブラックボックスとして受け入れ、研究対象に当たり前のように組み込むという研究です。
実用的なシステム構築を目指すエンジニアリングの観点では、それらを部品として組み込んだうえで役に立つものができれば目的は達成されます。
しかし、従来アカデミックな研究は透明性や再現性が必須であり、一企業が提供する中身も明らかでないAIサービスの入出力を無条件に受け入れて研究を組み立てることは、その前提を危ういものにします。
それでも、もはやビッグテックが作るAIと同等のものをアカデミアの研究者が作ることはほぼ不可能であり、研究の世界でもビッグテックAIを受け入れていくしかない現状があるように感じました。

■ AIの「正しさ」と道徳性

また、これからのAIの能力向上とAGIの実現を考えたとき、どう人にとって正しいAIを実現するのかという議論も行われました。
AIで著名なモントリオール大学のYoshua Bengio教授は、AIの出力決定機構の透明性や、AIの入出力への規制をどう作っていくのかを考える必要があると述べていました。

パネルディスカッションなども聞いて感じたのですが、欧米の研究者による「AIの正しさ」では、そもそも入出力には絶対的な「正誤」が存在し、いかに「誤り」を避けてAIに仕組みや規制で「正」を出力させるのか、ということを議論しているように感じられました。
もちろん数学や論理学のような絶対的な「正誤」の存在を前提とできる問題もありますが、多くの人々がAIに求める問いにおいては、絶対的な「正誤」が存在せず、立場や状況によってそれらが変わるものも多いように思います。

道徳的なAIを作ろうと思ったら、ルールや透明性だけでなく、道徳性そのものをどうやってAIに教え込むかが大事なような気がしました。
例えば企業であれば、規約やコーポレートガバナンスコードは正しい「運用」を担保するために必要ですが、その企業の社会的な在り方を決めるのは、細かいルールの列挙よりもVision、Mission、Valueにあるのではないでしょうか。
正しいAIもその両面を考えながら実現していく必要があると感じました。
私も「調和系工学」という研究テーマを掲げて、人や社会とAIとの関係性や相互作用をどう設計するのが良いのかを模索しておりますが、今回の参加でいろいろとヒントをもらったような気がします。

ビッグテックによる高性能AIの開発と、アカデミアのAI研究には少し違った流れがあるし、研究者もそのはざまでいろいろな苦悩があることを感じ取った今回のIJCAIでした。
両者が良い相互作用を続けていって、人や社会にとって素晴らしい未来をもたらすAGIの実現を目指すことができればよい、と強く感じた参加でした(2025年8月 川村秀憲)。


【2】調和系工学研究室WHAT’S NEW
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◇ TVhテレビ北海道「けいナビ 応援どさんこ経済」にて川村教授が取材を受けました

TVhテレビ北海道「けいナビ 応援どさんこ経済」のAI特集にて、川村教授が取材を受けました。
同番組MCの杉村 太蔵 氏、アナウンサーで北海道大学工学部ご出身の磯田 彩実 氏に研究室にお越しいただき、最新のAI事情や北海道ならではのAI活用について川村教授がお話ししました。
また、株式会社調和技研、株式会社サンクレエ、AWL株式会社も取材を受け、それぞれのAI活用事例が紹介される予定です。

放送日時は、2025年9月6日(土)午前11時30分からを予定しています。
ご興味のある方はぜひご覧いただければ幸いです。

[TVhテレビ北海道「けいナビ 応援どさんこ経済」]
https://www.tv-hokkaido.co.jp/news/keizai-nav-hokkaido/
https://youtu.be/wTfJivZvycs


◇ 東京新聞に川村教授のコメントが掲載されました

2025年8月9日付、東京新聞に川村教授のコメントが掲載されました。
本記事は、生成AIの回答に新聞社の記事が無断で利用されることに関する問題と、それに対する訴訟について報じています。
コメントで川村教授は、国がルールの方向性を示す必要性に言及しました。

[東京新聞](お読みになるにはログインが必要です)


◇「札幌市・大田広域市姉妹都市提携15周年記念 経済セミナー」に川村教授が登壇しました

2025年8月9日に、大田広域市にて開催された「札幌市・大田広域市姉妹都市提携15周年記念 経済セミナー」に川村教授が登壇しました。
本セミナーは、今年、札幌市と韓国の大田(テジョン)広域市が姉妹都市締結15周年を迎えることを記念し、両市の経済交流の促進を目的として開催されました。
当日、川村教授は、「北海道大学におけるAI研究とスタートアップ支援」をテーマに、お話ししました。

詳細は下記よりご覧いただけます
https://www.city.sapporo.jp/keizai/tradeinfo/documents/daejeon.pdf

[札幌市・大田広域市姉妹都市提携15周年記念事業]


【3】研究室に関連する企業・ベンチャー等のニュース
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◇ 日本経済新聞社主催「GenAI/SUM 2025 (生成AIサミット)」のIMPACT PITCHにAill(エール)がエントリーしました

日本経済新聞社主催「生成AIサミット(GenAI/SUM=ジェンエーアイサム) 2025 – AI共創時代の未来図 〜経済、社会、教育」のIMPACT PITCH(スタートアップ投票)に株式会社Aill(エール)がエントリーしました。

現在、IMPACT PITCHへの応援投票が実施されています。
63社のスタートアップがエントリーしており、審査や応援投票を経て、最終選考に残った8社によるファイナルピッチがイベント会場にて開催されます。
ぜひ、株式会社Aill(エール)を応援していただければ幸いです。

こちらから応援・投票いただけます(回答期限:2025年9月8日(月)23:00)
https://www.xsum.jp/gai/startup.html

イベント名:「生成AIサミット(GenAI/SUM=ジェンエーアイサム) 2025 – AI共創時代の未来図 〜経済、社会、教育」
日時:2025年10月6日(月) 〜 8日(水)
会場:九段会館テラス コンファレンス&バンケット
当日は講演、シンポジウム、ワークショップ、インパクトピッチ、ラウンドテーブル、展示などの催しが予定されています。

イベントの概要はこちらからご覧いただけます
https://www.xsum.jp/gai/

「Aill goen」は、共働き・共育ての価値観に賛同し実践する企業の独身従業員専用のAI恋愛ナビゲーションアプリです。導入企業に所属する独身者のみが利用できる福利厚生サービスとして、現在1400社を超える企業に導入されています。

川村教授は「Aill goen」の開発に携わり、現在、株式会社Aillの社外取締役をつとめています。

[生成AIサミット(GenAI/SUM=ジェンエーアイサム) 2025]
[株式会社Aill]
[Aill goen]


◇ TOKYO FM「三協フロンテア presents The Starters」にAill 代表 豊嶋 千奈 氏が出演しました

2025年9月2日に放送された、TOKYO FM「三協フロンテア presents The Starters(ザ スターターズ)」に株式会社Aill 代表取締役 豊嶋 千奈 氏が出演し、株式会社Aillが開発・提供する企業向けのAI縁結びナビゲーションアプリ「Aill goen(エール ゴエン)」について、詳しく紹介しました。

[TOKYO FM「三協フロンテア presents The Starters」]
[株式会社Aill]
[Aill goen]


【4】人工知能・ディープラーニングNEWS
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富岳NEXTの開発は「Made with Japan」、NVIDIAが加わりアプリ性能100倍の達成へ(itmediaより)
スーパーコンピュータ「富岳」の次世代となる新たなフラグシップシステム「富岳NEXT」の開発体制が発表された。理研を開発主体に、全体システムと計算ノード、CPUの基本設計を富士通が担当する一方で、GPU基盤の設計を米国のNVIDIAが主導するなど「Made with Japan」の国際連携で開発を推進する。

コーディングAIをもっと使いやすく、新標準「AGENTS.md」公開:いわばコーディングエージェント用の「README」(itmediaより)
 2025年8月20日、コーディングエージェント(=人間の代わりにプログラムを書いたり修正したりするAI)向けの新しい標準フォーマットの公式サイト「AGENTS.md」 ( https://agents.md/ )が公開された。

Microsoft、OpenAIに頼らない初の自社製基盤モデルと高効率な音声AIを発表(itmediaより)
米Microsoftは8月28日(現地時間)、自社開発した2つのAIモデル「MAI-Voice-1」と「MAI-1-preview」を発表した。
MAI-Voice-1は、MicrosoftのAI部門Microsoft AI(MAI)が開発した初の音声生成モデル。単一スピーカーからマルチスピーカーのシナリオまで、高音質で表現豊かなオーディオを提供するとしている。

履歴を残さず会話できるGeminiアプリの「一時チャット」、利用可能に(itmediaより)
Microsoftは、自社開発のAIモデル「MAI-Voice-1」と「MAI-1-preview」を発表した。前者は高効率な音声生成モデルで、Copilot Labsで試用可能。後者はOpenAIに依存せず開発した初の基盤モデルで、公開テストを開始している。

生成AIで巧妙化するフィッシングメール 総務省、DMARC導入など対策強化を業界に要請(itmediaより)
総務省は9月1日、フィッシングメール対策への対策を強化するよう、IT関連の業界4団体に要請した。フィルタリング精度の向上や送信ドメイン認証(DMARC)の導入などを進め、2026年8月末まで、3カ月ごとに進捗を報告するよう求めている。

「Yahoo! JAPAN」アプリは「AIエージェント目指す」 新機能「AIハイライト」はOpenAIのAPI活用(itmediaより)
LINEヤフーは9月3日、「Yahoo! JAPAN」アプリで、フォローしているテーマに関する最新情報を生成AIが選び、簡潔な見出しを自動で作って表示する新機能「AIハイライト」を始めた。


【5】調和系工学研究室関連企業NEWS
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北海道新聞:産業ロボットの利点解説 ニッコー佐藤社長、釧路で講演(株式会社ニッコー)
会社経営者らが産業用ロボットや人工知能(AI)について学ぶイベントが、釧路市内の市観光国際交流センターで開かれた。

津久見高卒業生のアプリが日本ノーコード大賞優秀賞に 後輩の就職支援へ在学中開発(株式会社インターパーク)
【津久見】津久見市の津久見高卒業生が考案した就職支援アプリケーションが、第3回日本ノーコード大賞の優秀賞に選ばれた。全国の自治体や企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進にかかる取り組みを表彰するもので、教育機関の受賞は初めて。

大阪府済生会富田林病院の業務効率化とガバナンス強化を実現 人事給与システム「GrowOne 人事SX/給与SX 」の導入実例を公開(株式会社ニッセイコム)
2016年の社会福祉法改正により求められている経営組織のガバナンス強化に対応するとともに、診療報酬改定時の手当追加や勤怠管理システムとの連携による手作業の削減を実現。

網屋、ソフトクリエイトと共同で「ALog」×「HENNGE One Identity Edition」連携による新セキュリティ導入支援サービスを開発(株式会社網屋)
2025年秋提供開始予定、SIEM導入の“高い壁”をソフトクリエイトのノウハウと伴走支援で突破


【6】AI川柳
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調和系工学研究室では、毎日新聞社「仲畑流万能川柳」や第一生命保険「サラリーマン川柳」を学習用の教師データとした「AI川柳」に取り組んでいます。

2020年3月までの1年間「NHK総合 ニュースシブ5時」にて、その週の話題のニュースのキーワードをお題に、バーチャルアナウンサー「ニュースのヨミ子」さんが詠んでいたAI川柳も、本研究室が開発した人工知能システムです。
多くの皆さんに楽しんでいただけるよう、2020年6月にAI川柳のTwitterアカウント( https://twitter.com/ai_senryu )を開設いたしました。

AIには詠んだ句に対する「良し悪し」の感覚はありません。そのため、人間がどのように感じ、どのような情景を思い浮かべるかにより、AIが詠んだ句に意味が生じてきます。
AIが詠んだ句に共感していただけましたら大変うれしく思います!

★ お題「夏休み」(8月20日投稿)

温暖化今年も暑い夏休み

夏休みの開放感とは裏腹に、地球規模の課題がじわりと存在感を増しているようです(感想は #ChatGPT と作成)。

★ お題「涼しい」(8月26日投稿)

涼しいと思えば暑いこともある

“思えば”“こともある”という柔らかな言い回しが、季節の移ろいと人の戸惑いをそっと包み込む(感想は #ChatGPT と作成)。



【ご寄附のお願い】
人工知能によるイノベーションでより素晴らしい世界を実現することが、私たち調和系工学研究室の使命であると考え日々研究に取り組んでいます。
大学での研究活動には、研究に必要な機器の整備のほかにも、学生の学会への参加や論文投稿など研究費が欠かせません。

私たちの取り組みにご賛同いただけ、応援のご寄附を賜れましたら大変心強く、研究を続けるうえで大きな励みとなります。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

調和系工学研究室 教授 川村 秀憲

[北海道大学奨学寄附金制度について](本学への寄附金については、税法上の優遇措置の対象となります)
お問い合わせ先:http://harmo-lab.jp/contact

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

◇ 次号は、2025年9月19日に配信する予定です。
◇ メールマガジンのバックナンバー
 http://harmo-lab.jp/?page_id=2918
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調和系工学研究室教員
川村 秀憲教授
山下 倫央准教授
横山 想一郎助教

調和系工学研究室HP
調和系工学研究室FB
川村 秀憲教授FB
AI一茶くん
調和系工学研究室AI川柳

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