2022年12月16日配信

こんにちは。
北海道大学調和系工学研究室(川村秀憲教授、山下倫央准教授、横山想一郎助教)です。

12月も半ばとなり、年末へ向け慌ただしくなってきているかと思いますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
本研究室のメールマガジンも2022年は本号で最終となります。
それでは、本日もどうぞよろしくお願いいたします。

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◇ 本日のTopics ◇
【1】調和系工学研究室WHAT’S NEW
【2】日経MJ 「川村秀憲のなるほどAI」
【3】調和技研×AIの旗手 #4 :飯塚博幸准教授(北海道大学)
【4】受賞レポート
【5】学会参加レポート
【6】ディープラーニング勉強会
【7】人工知能・ディープラーニングNEWS
【8】AI川柳
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【1】調和系工学研究室WHAT’S NEW

★ 日経MJに川村教授の連載コラム「川村秀憲のなるほどAI」の第6回が掲載されました

2022年12月7日の日経MJに川村教授の連載コラム「川村秀憲のなるほどAI」が掲載されました。
第6回は「人間の曖昧な指示でも理解」と題し、人間の曖昧な指示に従ってロボットが軽作業に従事する世界についてのお話です。
本メルマガにて内容を詳しくご紹介させていただきます。

[日経MJ]


★ 道新こども新聞「週刊まなぶん」に「北大・川村秀憲教授に聞くAIを知ろう」が掲載されました

道新こども新聞「週刊まなぶん」にて連載中の「北大・川村秀憲教授に聞くAIを知ろう」が2022年12月10日(土)に掲載されました。
連載最終回となった今回は、「14 子どもたちへ」と題し、川村教授へのインタビューや子供たちへのメッセージが載っています。

「週刊まなぶん」は北海道新聞を購読している方に、毎週土曜日の朝刊と一緒に無料で届けられる子ども新聞です。
お子様をお持ちの皆様など、ご興味がありましたらぜひお読みください。

[週刊まなぶん]


★ 研究室に関連する企業・ベンチャーのニュース

◇ 調和技研がAOSデータと戦略的提携を行い、ワンストップサービスを共同で提供します

株式会社調和技研は、クラウドデータ、システムデータ、AIデータなどのデータアセットマネジメント事業を展開するAOSデータ株式会社と戦略的提携を行い、AIライフサイクル基盤のAIデータ、およびAI産業実装ソリューションのAIシステム構築・運用プロジェクトにおけるワンストップサービスの共同提供を2022年12月1日より開始することを発表しました。

下記より詳細をご確認いただけます。
https://www.chowagiken.co.jp/news/20221201-2/

[AOSデータ株式会社]
[株式会社調和技研]


◇ 日経新聞にオンラボ北海道卒業生としてAillを取り上げていただきました

2022年11月30日の日本経済新聞道内版にて「オープンネットワークラボ(オンラボ)北海道」の卒業生として株式会社Aillを取り上げていただきました。

「オープンネットワークラボ(オンラボ)北海道」は道内のスタートアップを育成するプログラムであり、開始から5年で22社が卒業しています。
川村教授がCo-founderを務める株式会社Aillは「オープンネットワークラボ(オンラボ)北海道」の第1期生です。

[オープンネットワークラボ(オンラボ)北海道]
[株式会社Aill]


◇ ITmediaビジネスONLiNEにAWLが共同開発をした「リテールコネクト」を取り上げていただきました

ITmediaビジネスONLiNEの「クライアントが広告業界の脅威に!? ファミマも参入した『リテールメディア』の破壊力」内にて、AWL株式会社が株式会社サッポロドラッグストアー、および株式会社サイバーエージェントと共同開発し、2022年2月より提供を開始している「リテールコネクト」について取り上げていただきました。

[クライアントが広告業界の脅威に!? ファミマも参入した「リテールメディア」の破壊力]
[リテールコネクト]
[AWL株式会社]


◇ AWL代表 北出氏が「第22回Japan Venture Awards」にて「地域貢献特別賞」を受賞しました

独立行政法人中小企業基盤整備機構が、革新的で潜在成長力の高い事業や社会課題解決を目指す事業を行う、志の高いベンチャー起業家を表彰する「第22回 Japan Venture Awards (略称:JVA)」にて、AWL株式会社 代表取締役社長 兼 CEOである北出宗治氏が「地域貢献特別賞」を受賞しました。
「地域貢献特別賞」は地域経済の活性化や地域課題の解決に貢献する事業を行う模範的な事例となる経営者に贈られる賞です。

[第22回 Japan Venture Awards (略称:JVA)]
[独立行政法人中小企業基盤整備機構]
[AWL株式会社]


【2】日経MJ 「川村秀憲のなるほどAI」

2022年7月より日経MJで川村教授の連載コラム「川村秀憲のなるほどAI」がスタートしました。
12月7日に掲載されました第6回の内容をメルマガでも紹介させていただきます。

人間の曖昧な指示でも理解
ヘルパーロボ、任務成功確率74%

今回はグーグル・リサーチとロボット開発会社のエブリデー・ロボットが共同開発したロボットについて紹介したいと思います。こロボットの頭脳には、現実世界で基礎訓練を受けた言語モデルと、コンピュータ上で動作する自然言語処理モデルを組み合わせて開発された人工知能(AI)が搭載されています。

AIを構成するパラメーター数は5400億にもなります。これによって、言語による人間の指示に対して適切に動作するロボットの実現を目指しています。

このロボットの能力ですが、開発プロジェクトの公式ページでは、「ジュースをこぼしたので何か掃除するものを持ってきて」という指示に対して、スポンジを持ってきて渡すというデモが公開されています。

人間なら、これぐらいのことは幼児でもできそうな簡単なことですが、AI研究の歴史では、この簡単なことをロボットに実行させることがとても難しいことと考えられていました。

一見簡単に思える人間の指示ですが、この指示に反応して適切に動作するためにはロボットは多くのことを処理しなければなりません。まず、ロボットが状況を理解するためには、現実世界にある「もの」や「こと」、「概念」などを「言葉」や「記号」に正しく結びつける必要があります。

ロボットが実際にカメラから得られた画像を手がかりに現実世界の状況を認識し、動作手順を組み立てるために記号で整理します。

仮に正しく記号が整理できたとしても、その先にも難しい問題があります。ジュースをこぼしたことの対応としてスポンジを持っていく、ペーパータオルを持っていく、モップを掛けるなど、いろいろなことが可能性として考えられます。

スポンジを持っていくことにしても、パッと見て部屋に見つからない場合は戸棚、物置、納戸などどこまで探すべきか、スポンジを買いに行くべきか、どこかで諦めるべきかなども考えなければなりません。

このように、無限とも思える可能性の中から適切な答えを見つけなければならない場合において、関係のある事柄だけを選び出すことは難しい問題です。普段、人間は難なく解決しているこの問題も長らくAI研究の中で解決するのが難しいと言われてきました。

プロジェクトの発表では、ジュースの掃除だけではなく、「疲れているから元気のでるお菓子を持ってきて」など、オフィス内で想定される様々な指示をロボットに出し、84%の確率で適切な判断を下して、74%の確率で正常にタスクを実行したと報告されました。

プロジェクトではこのロボットを「ヘルパーロボット」と位置づけ、現実世界で人の役に立つロボットの実現を目指しています。

さらなる研究と改良は必要でしょうが、人間の曖昧な指示に従ってロボットが軽作業に従事する世界の実現は目の前まで来ていると言えると思います。職場や各家庭に1台、こうしたロボットがある世界もそう遠くないかもしれません。

そうなると、我々はいよいよ人の仕事とはなにか、人がしなければならないことはなにか、そして人はなんのために存在するのかといった問いを真剣に考えなければいけないタイミングにきているのでしょう。


【3】調和技研×AIの旗手 #4 :飯塚博幸准教授(北海道大学)

北海道大学発AIベンチャーである株式会社調和技研では「調和技研×AIの旗手」と題し、大学教授をはじめとする、AI研究の第一線で活躍する方々と調和技研社員が対談する企画をスタートさせました。
第4回は本研究室OBでもある、北海道大学 大学院情報科学研究院 自律系工学研究室の飯塚博幸准教授と研究開発部の小潟(但野) 友美氏の対談です。
飯塚准教授は調和技研の技術顧問でもあります。
お二人の対談をメルマガでも紹介させていただきます。

AIというツールを使い、「生命たらしめるもの」が何かを見つけたい。

◆ お掃除ロボットは生命?それとも工業製品?

小潟  まず飯塚先生が研究する人工生命について簡単に教えてください。

飯塚  端的にいえば、コンピュータの中で考える生命。仮にこの世界が神様によるいたずらなく現在の形になったとするなら、コンピュータ内で考え得る生命もいるはずです。コンピュータの中で物理法則や時間の積み重ね、進化といった世界の誕生に重要な法則や状態を再現することで、コンピュータ内で考えられる生命を作ることができるのではないかと考えています。言葉にすると難解ですし、想像しにくいですよね(笑)。私が人工生命に興味を抱いた時も「?」でした。複雑系という学問が流行していた時代のこと。さまざまな本が出版される中で、東京大学の教授を務めている池上高志さんの書籍に出会いました。書いてある内容は、当時の私には理解を越えていたからこそ、妙に心を動かされたんです。

小潟  具体的にはどのような研究を?

飯塚  人工生命の研究にはいろんなレイヤーがあります。例えば、原始的な化学反応が起こり、自己複製が生まれることで進化が始まって、単細胞生物が誕生するというプロセスの研究もその一つです。一方で、その段階は考えずに人間の認知的なプロセスがどう出来上がるのかをシミュレーションすることも。あるいは、動物の群れが織りなす生命らしさについて、深堀りするケースもあります。

小潟  例えば「ルンバ」に愛着を感じる人もいると聞きますが人工生命といえるのでしょうか。

飯塚  個人的には人工生命だとは感じられないのが本音。「ルンバ」を開発したiRobot社を立ち上げたのは、環境との相互作用から生物の動きを作り出そうとしたロドニー・ブルックスという研究者です。とはいえ、「ルンバ」に関していえば掃除を目的とした完全な工業的な製品だと思います。掃除する姿が「生き物らしくてカワイイ」という人もいますが、私はお掃除ロボットを見ても「このアルゴリズムはどうなっているのか」や「ココで繰り返しのプログラムに入ったな」と考えちゃいますね(笑)。

◆ 相手の視点に立ち、気持ちを理解する仕組みとは。

小潟  最近のトレンドや面白い研究はありますか?

飯塚  手前味噌ですが、今まさに私が携わっている研究が好きです。普通、自分と他者は完全に違うものと考えがちですが、仮に自分の頭の中に自分と他者を区別することなく処理するプロセスがあるとします。この仮定を、コンピュータでシミュレーションしてみると、自分を知るように相手を知ることができ、自然と他者の見ている視点まで想像できるようになるんです。

小潟  自分の視野だけでなく、相手の視野が見えるということですか?

飯塚  言葉では説明しづらいのですが、私と但野さんがいて、私の頭の中で「私のための情報」「但野さんのための情報」という区別なく処理をしていると、いつしか但野さんから見た景色や気持ちが何となく分かるようになるという不思議な現象です。よく「相手の視点に立って気持ちを理解する」といいますが、その視点を人はどのように獲得するのかが問題になっています。諸説ある中で、私たちは「共有モジュール」を使えば、相手の見ている景色を教えてもらわずとも、想像することができるようになるのではないかという仕組みの研究を進めているんです。

小潟  すごく不思議な話ですね。

飯塚  例えば、他者の投球練習の動作を見ているだけでも、自分の運動能力が変わることもありますよね。こうしたケースも、同様のシミュレーションによって上手く解決できるのではないかと考えています。

小潟  ところで、先生は円山動物園の共同研究にも携わったとか。

飯塚  チンパンジーの個体を見分けるためにAI技術を活用しました。動物つながりの研究でいうと、ある種の鳥は親から子へ鳴き方を伝えていくうちに「歌」を真似するようになります。実はこうした真似の研究も人工生命の守備範囲。例えば、相手の上手くいっている商売を真似すると、自分にも利益が生まれますよね。なので、真似するというのは進化としても重要な行動。ただ、敵対関係にある場合、真似されると相手は不利になるので真似されたくないと思うはず。ニューラルネットワークの構造を用いて「相手の真似をするけれど、相手に真似されたくない」を相互に学習するシステムでシミュレーションしたところ、カオス…複雑なパターンを生み出すことが分かりました。例えば、相手が真似しやすい部分を敢えて作る一方で、肝心なコツは隠しておくような進化を遂げるなどです。私にとってのAIは、こうした研究のツールとして使うものという割合が大きいですね。

◆ 生命を生命たらしめる必要条件や理由の解明を。

小潟  飯塚先生の研究が発展していくと、行き着く先はどこでしょうか?

飯塚  本当に可能かどうかは分かりませんが、私が生涯を閉じる前までには自分の意識を安全なところに移したいと思っています(笑)。ただ、もう少し真面目にいうと、人工生命の目的の一つでもある「生命を作りたい」ですね。AIはあくまで実態のないソフトウェアとしての知能ですが、私たち人工生命の研究者はある環境に実在していて、生命を維持し続けるために行動するようなものを実現させたいと考えています。

小潟  では、何があると生命と呼べるんでしょうか?

飯塚  作った機械が人間の知能と見分けがつかないのであれば、生命と呼ばざるを得ないはず。いわゆるチューリングテスト(機械の能力が、人間の知的活動と同等かそれと区別がつかないほどであるかを確かめるためのテスト)を突破するということです。ただ、それでも「生命たらしめるものは何か」の必要条件や理由がきっとあるので、その解明が使命でもあります。

小潟  映画に登場する人間のようなロボットは生まれそうでしょうか?

飯塚  そのような論調は高まっています。私はもともと生命の本質は見た目に左右されないと考えていましたが、大阪大学の石黒教授が作った外見も人間らしいロボットを目の当たりにし、お話を聞いたことで「外側」も大切だと思うようになりました。何せ顔を近づけ過ぎると緊張したくらいですから。このような人間らしい見た目のロボットは数多く開発されていくと見込んでいます。ただ、相互作用という面でいうと、仮に私が殴りかかってもロボットが焦るわけではないので、やはり生命とは異なるというのが正直な感想です。問題になってくるのは、人とのインタラクションをどう作るのかということ。「コレが生命かどうか」を判定するのは、結局のところ人間ですから。

◆ AI技術の進歩と密接につながっている人工生命。

小潟  調和技研の技術が役立つような研究はありますか?

飯塚  現在、手話の学習システムを作るプロジェクトに携わっています。人間の動作や言語に対して、AIを使ってどのような行動か、単語なのかを認識させているところです。調和技研もさまざまなAI技術を持っているので、それらを上手く活用することで、より良い手話の学習システムを作れる可能性は大いにあると思っています。

小潟  手話は動画から解析するのですか?

飯塚  動画を入力して、手の動きを画像ごとに処理することもあれば、骨格情報から関節の角度を修正して認識させることもあります。手話は自然言語に比べて長い歴史があるわけではないことを考えると、現状では自由な会話の意味を訳すのは難しいですし、膨大な訓練データが必要です。今のプロジェクトは札幌市視聴覚障がい者情報センターやBIPROGY株式会社(旧・日本ユニシス)と協力し、データを学習させています。

小潟  手話の場合の難しさとは?

飯塚  手話というと手の動作に注目されがちですが、表情からも気持ちを伝えています。そのため、骨格情報だけではポジティブな心境なのか、ネガティブなのかが抜け落ちることもあるんですね。また、手話の場合、一連の手の動きで「どこまでが手話」なのか「どこからがジェスチャー」か見分けづらいところも難点。ただ、AIやディープラーニングの発展を考えると、将来的には自由な翻訳も可能になると思います。

小潟  先生は調和技研の技術顧問としてアドバイスを求められることもあると思いますし、私も人の印象や感性を分析する方法について相談したことがあります。当社についてどんなイメージをお持ちですか?

飯塚  日本人も外国人もいますし、バックグラウンドがさまざまな多様性に満ちていると思います。大学に向いていそうだったり、ウチの研究室にきてくれたら良さそうだったり(笑)。ただ、やはり、企業の案件が大半だと思うので、ゴールが決まっている中で最も効率の良い方法を探すということに長けているのではないかと感じます。この手法を試すとプロジェクトが進みやすいというような新しい発見にもふれられるイメージです。

小潟  調和技研から刺激を受けることは?

飯塚  今のAI技術は人間がやらなくても良いこと、もしくは人間よりもコンピュータが上手くできるものを、どんどん置き換えていきましょうという段階。そうした課題は社会の中に数多く転がっているため、調和技研の得意分野が生かせますよね。むしろ私の人工生命の研究にスポットが当たる機会は少ないのが現状です。ただ、お互い最終的に行き着く場所は「心の問題」。オフィスで観葉植物や水槽を泳ぐ魚を見て、世界とつながっているような安らぎが得られるように、生命がいるという安心感をロボットが担っても良いはずです。AI技術の進歩は人工生命を作ることにダイレクトにつながるため、調和技研の仕事ともそう遠くない未来で交わる部分は多いと思っています。単純に技術的な面で「そうきたか」と刺激を受けることもありますしね。

小潟  最後に若手技術者や研究者にアドバイスを。

飯塚  私自身の研究が一つのことを掘り下げるのではなく、幅広い分野を横断的に学ばなければならず、それが楽しいタイプでもあります。自らの面白いと感じたことに面白く取り組んでほしいですし、調和技研はそれをしやすい環境だと思います。月並みかもしれませんが、好きなことを突き詰めるのが大切ではないでしょうか。

[調和技研×AIの旗手 #4 :飯塚 博幸 准教授(北海道大学)]
[株式会社調和技研]
[北海道大学 大学院情報科学研究院 自律系工学研究室]


【3】受賞レポート

◆ 2022年11月23日~25日、京都大学にて開催された「The 17th International Conference on Knowledge, Information and Creativity Support Systems (KICSS2022)」において修士2年の平田航大さんが「Outstanding student Paper」を受賞しました。

◇ 平田航大, 横山想一郎,山下倫央,川村秀憲:Implementation of Autoregressive Language Models for Generation of Seasonal Fixed-form Haiku in Japanese
(日本語での有季定型句の生成に向けた自己回帰モデルの実装)

概要:本稿では人工知能による俳句生成器の構築を目指し、既存俳句と文学作品を用いた言語モデルの学習、パープレキシティなどの自動計算が可能な評価指標によるモデル性能の評価、アンケート調査による生成俳句の主観的な評価を行った。
本論文の主な貢献は2つである。1つ目は俳句生成モデルの開発において有効であると考えられる、自動計算可能な評価指標とアンケートなどによる主観評価の結果を活用した、一連のモデル評価プロセスの有効性を実践したこと。2つ目は高性能な言語モデルであるGPT-2やBARTを用いて高品質な俳句生成を行ったこと。
最終的な生成俳句の質としてはアンケート調査の結果として、インターネット上から収集した人間作の俳句と変わらないレベルで意味の通る俳句を生成可能なレベルであることが分かった。

平田さんのコメント:この度KICSS2022という学会においてOutstanding student paper を受賞することが出来ました。初めての現地参加、初めての英語発表ということもありぎりぎりまで原稿や発表資料の修正を行っていました。直前までミーティングに付き合っていただいた先生方やフィードバックをくださった研究室のメンバーにはとても感謝しています。
また、本発表では有限会社 マルコボ.コムの方々にご協力いただき、数々のアドバイスやアンケート調査へのご協力を頂きました。多くの方々に支えられ、いただけた賞であると実感しています。また、現地参加ならではの他の研究者との交流や、京都の街並みから英気を養うことが出来たと思います。頂いた賞を励みにして、今後も研究活動に従事していきたいと思います。

[KICSS2022]


◆ 2022年11月16日に秋田県由利本荘市/オンライン(ハイブリッド)にて開催された情報処理学会「第91回 高度交通システムとスマートコミュニティ研究会 (ITS)」において本研究室の清水雅之さん(修士1年)が「奨励賞」を受賞しました。

◇ 清水 雅之,横山 想一郎, 山下 倫央, 川村 秀憲:灯油配送計画の最適化に向けた道路ネットワークの階層化手法の検証

概要:本稿では, 灯油配送計画の最適化に向けた経路探索の計算時間の削減とドライバーの細街路に対する忌避を考慮した経路探索を実行するための道路ネットワークの階層化手法を提案する. 提案手法の効果を検証するために, 札幌駅を中心とする 7km 四方の道路ネットワークにおいて, 異なる度合いの細街路への忌避を持つ複数種類のドライバーを設定した計算機実験を行った. 実験の結果, 提案手法を適用した経路探索は, 経路探索の計算時間と求められた経路のコストに関して従来手法を上回ることを確認した. また, 従来手法を適用した場合に最短経路に対して著しくコストの大きい経路が得られてしまう OD ペアに対して, 提案手法が最短経路とほぼ同等の経路を求める例を示した.

清水さんのコメント:私は、車両の経路探索に関する研究を行っています。研究の方向性としては、車両が動的に変化する交通状況の中で早く目的地へ到達できる経路探索を実現することを目指して研究を進めています。
今回の研究会発表では、当研究室でも行われている研究である灯油配送に着目し、灯油配送計画の最適化に向けて、既存の道路ネットワークの階層化手法の検証および改良を行いました。具体的には、大規模な道路ネットワークにおける経路探索の計算時間の短縮に加えて、異なる細街路への忌避度を持つドライバーに対する有効性の検証に注力しました。
先生方や研究室の先輩後輩のサポートなしでは研究会発表にまで至れなかったと思います。
頂いた賞を励みにして、今後も研究活動に従事していきたいと思います。 

[第91回 高度交通システムとスマートコミュニティ研究会(ITS)]


研究内容にご興味がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ:http://harmo-lab.jp/contact


【4】学会参加レポート

◆ 人工知能学会合同研究会2022「第22回データ指向構成マイニングとシミュレーション研究会 (SIG-KBS)」

2022年11月22日に慶応大学矢上キャンパス/オンライン(ハイブリッド)にて開催された人工知能学会合同研究会2022「第22回データ指向構成マイニングとシミュレーション研究会 (SIG-KBS)」(http://collabodesign.org/docmas/2022/11/01/176/) に本研究室より平田航大さん(修士2年)、赤坂駿斗(修士2年)、劉兆邦さん(修士2年)が参加し、各々の研究について発表しました。

◇ 平田 航大,横山 想一郎, 山下 倫央, 川村 秀憲:有季定型句の生成に向けた深層自己回帰モデルの実装と評価

概要:本論文では,人工知能俳句生成器の実装について述べる.既存の俳句や文学研究を用いて言語モデルを学習し,perplexityなどの自動計算可能な評価指標を用いてモデル性能を評価し,さらにアンケート調査によって生成された俳句を主観的に評価した.本論文の主な貢献は以下の通りである. 第一に,自動計算可能な評価指標とアンケートによる主観的な評価結果を含む一連のモデル評価プロセスの有効性を検討したことである. これらのプロセスは,俳句生成モデルの開発において有効である.第二に,GPT-2やBARTなどの言語モデルを用いて高品質な俳句生成を実現し,人間が書いた俳句と同等の質の俳句を生成したことである. この研究で得られた知見は他の生成タスクにも応用可能であると考えられる.


◇ 赤坂 駿斗,横山 想一郎, 山下 倫央, 川村 秀憲:複数プレイヤーの同時対戦を考慮したイロレーティングの拡張

概要:チェスや将棋などの2人制ゲームでは,プレイヤーの強さを推定して順位付けし,同じ強さの相手と対戦させるために,Eloレーティングなどのレーティングシステムが用いられている. 一般に用いられるEloレーティングは複数人の同時対戦を考慮していない.本稿では,複数人が同時対戦する競技における選手の強さを推定することを目的とし,Eloレーティングを拡張した手法を提案した. 本手法を実際に行われている競輪データに適用し,その性能を評価したところ,既存指標よりも高い精度を示した.


◇ 劉 兆邦, 横山 想一郎, 山下 倫央, 川村 秀憲:Estimation of Household Kerosene Consumption Using DeepSets for Efficient Kerosene Delivery Plan

概要:多くの地域で灯油は暖房用の燃料として重要である.特に日本の寒冷地では配送会社が定期配送で顧客の灯油タンクへ給油している.しかし,配送会社は灯油残量がわからないため,良い配送計画の作成が困難である。加えて,既存のエネルギー消費量推定手法は一つの目標に集中しており,灯油のような複数の顧客を含んだ推定手法は少ない.私たちはDeep Setsに基づいたモデルを提案して,消費量と一日当たりの消費量を推定した.モデルはデータを拡張し,時間範囲内の情報を抽出している.また,Attentionを利用して各タイムステップの関連性を抽出する.本モデルは線形モデル,DNNモデルより精度が高いことを示した.また,長期的な給油に対して,LSTMモデルの精度よりも高いことがわかった.


◇学会の様子等を赤坂さんがレポートしてくれました。

― 最近の動向
本学会のテーマが「データとシミュレーションを活かした社会システムのデザイン」ということもあり、私たち以外の発表も含めて私たちの研究室が目指すような社会の問題に技術をもって解決しようというモチベーションの研究が多く観られました。

― 研究会に参加して気づいたこと
テーマの偏りがなく自然言語やパタンモデリング等様々な問題や解決手法が共有された学会だと感じました。私はオンラインからの発表となりましたが、今回は現地の発表も含めたハイブリット開催となりました。現地の発表者も多く招待講演もあったため賑わっていたと思います。しかし、ハイブリット開催は進行上の都合、誰がオンラインで誰が現地発表なのかを把握してプログラムに記載すべきと感じました。

― 興味深かった発表について
本研究会の招待講演で発表された小池英樹教授(東京工業大学情報理工学院)の発表が面白いと感じました。「技術獲得支援のための基盤技術とその応用」という題で発表されました。
概要は、主にカメラを用いてスポーツや音楽のプロの動作を記録して初心者からプロの卵までの育成を支援することを目的としたシステムの開発です。競技によってカメラ以外も使っています。例えばスキーではカメラの他に足元のどこに力が伝わっているかを計測していたり、VRを用いたトレーニングシステムを実現していたりしています。また、ピアノやゴルフのシステムも開発されており、複数の事象に適用しています。


◆ 「第127回知識ベースシステム研究会(SIG-KBS)」

2022年11月23日に慶応大学矢上キャンパス/オンライン(ハイブリッド)で開催された人工知能学会合同研究会2022「第127回知識ベースシステム研究会(SIG-KBS)」(http://tozaki.is.chs.nihon-u.ac.jp/sig-kbs/prg/221123.html)にて本研究室より大江弘峻さん(博士1年)が発表しました。

◇ 大江 弘峻,横山 想一郎, 山下 倫央, 川村 秀憲(北海道大学), 多田 満朗(ゼロスペック株式会社):灯油配送計画問題の近似最適化における車両別配送地域の決定戦略の検証

概要:灯油配送は主に家庭の灯油タンクに定期的な配送を行う業務である。灯油配送業務に必要となる灯油配送計画は、灯油タンクを切らさないようにしつつ、できるだけ短い時間で配送が可能となるように作成する必要がある。本研究では、配送地域を決定することが可能な決定戦略及び配送計画問題用のヒューリスティックを提案する。実データに基づく灯油配送計画問題の実験より、手法によって実際の配送と比べて36%程度の作業時間の削減が可能な配送計画の実現可能性を示した。


◇ 学会の様子等を大江さんがレポートしてくれました。

― 最近の動向
料理や道路のネットワークに関する研究から、予測AIを介護現場に活用した研究まで幅広いトピックだったと思います。特に、これまで触れたことがなかった研究としては、公開されているWi-Fiデータを使用し、京都都市近郊を訪れた人間の行動の推移を分析した研究がありました。予測AIを介護現場に活用する研究については、認知症患者に対する介護現場で発生する認知症患者の暴力的な言動や徘徊などの問題のある行動を事前に予測していました。予測には、部屋の環境データの取得が可能なセンサボックスが設置され、この環境データをAI (XGBoost) に入力し予測を行っていました。予測については、実証実験当初はうまくいかなかったらしいですが、データが収集できるようになってから精度が改善したそうです。

― 興味深かった発表について
市川拓斗さん (北海道大学)の「訪問介護時の介護者の送迎問題に対する厳密解法と近似解法における比較実験」の発表。
訪問介護における送迎を最適化する問題について、厳密解法と近似解法の2つを用意し比較した研究です。発表は経過であったため、まとまった結論は示されていなかったですが、近似解法、厳密解法の比較については今後さらなる評価項目が必要であることが分かりました。僕がおこなっている灯油配送計画問題の最適化に関しては、近似解法を問題に適用しているのですが、この研究で提案された手法はまだ使用したことがなかったため、今後適用する手法として検討出来そうだと思いました。


研究内容にご興味がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ:http://harmo-lab.jp/contact


【5】ディープラーニング勉強会

調和系工学研究室ではディープラーニングの最新の知識共有を目指し、毎週ゼミを実施しています。
担当学生がトップカンファレンスから自分の興味のある論文について発表し、意見交換をしながら進めています。
本研究室HP( http://harmo-lab.jp/?page_id=1194 )には過去の発表に使用したスライドも公開していますので、ご興味のある方はぜひそちらもご覧ください。

[紹介論文]
DeBERTaV3: Improving DeBERTa using ELECTRA-Style Pre-Training with Gradient-Disentangled Embedding Sharing

公開URL:https://arxiv.org/abs/2111.09543

論文紹介スライドURL: https://www.slideshare.net/harmonylab/debertav3-improving-deberta-using-electrastyle-pretraining-with-gradientdisentangled-embedding-sharing

出典:Pengcheng He, Jianfeng Gao, Weizhu Chen : DeBERTaV3: Improving DeBERTa using ELECTRA-Style Pre-Training with Gradient-Disentangled Embedding Sharing, arXiv: 2111.09543 (2021)

概要:本論文ではDeBERTaの事前学習手法をMasked Language Modeling(MLM)からELECTRAで提案されたReplaced Token Detection(RTD)に変更したDeBERTa V3を紹介する. また,ELECTRAにおけるGeneratorとDiscriminatorのEmbedding共有手法の問題点を分析し,その問題を回避する新しい共有手法であるGradient-Disentangled Embedding Sharingを提案する.代表的な自然言語理解タスクでDeBERTa V3の性能を評価し,同様の構造をもつモデルの中でも高い性能を示すことを示した.(博士3年 吉田拓海)


【6】人工知能・ディープラーニングNEWS

対話向け言語モデル「ChatGPT」発表、間違いを認めたり不適切な要求を拒否したりすることが可能に
A simpler path to better computer vision
朝日工業、鉄スクラップの検収をAIで自動化、88%の査定精度を実証
「2足歩行の人間」が「4足歩行のロボット」を全身運動で直感操作するとこうなる
介護施設利用者の転倒・転落・滑落事故を検知し、予防につなげる新サービスの提供開始
写真内の不要な顔だけ“実在しない顔”に置き替えるAI プライバシー保護に活用 Intelなどが開発
丁重に忘年会を断るための『忘年会お断り文章生成AI』誕生
半導体新会社「ラピダス」 次世代半導体で米IBMと提携「我が国にとって非常に重要」
NECがAIを活用して固定無線の通信距離を2倍にする歪補償技術を開発


【7】AI川柳

調和系工学研究室では、毎日新聞社「仲畑流万能川柳」や第一生命保険「サラリーマン川柳」を学習用の教師データとした「AI川柳」に取り組んでいます。
2020年3月までの1年間「NHK総合 ニュースシブ5時」にて、その週の話題のニュースのキーワードをお題に、バーチャルアナウンサー「ニュースのヨミ子」さんが詠んでいたAI川柳も、本研究室が開発した人工知能システムです。
多くの皆さんに楽しんでいただけるよう、2020年6月にAI川柳のTwitterアカウント( https://twitter.com/ai_senryu )を開設いたしました。
AIには詠んだ句に対する「良し悪し」の感覚はありません。そのため、人間がどのように感じ、どのような情景を思い浮かべるかにより、AIが詠んだ句に意味が生じてきます。
AIが詠んだ句に共感していただけましたら大変うれしく思います!

★ お題 「悔しさ」(12月7日投稿)
  悔しさは心に残る忘れ物
「悔しさ」をバネに成長できるといいですよね。

★ お題 今年の漢字「戦 」(12月13日投稿)
  絶対に負けてないのに長期戦
この一句から、みなさんはどんな「戦」を思い浮かべますか?


【ご寄附のお願い】
人工知能によるイノベーションでより素晴らしい世界を実現することが、私たち調和系工学研究室の使命であると考え日々研究に取り組んでいます。
大学での研究活動には、研究に必要な機器の整備のほかにも、学生の学会への参加や論文投稿など研究費が欠かせません。
私たちの取り組みにご賛同いただけ、応援のご寄附を賜れましたら大変心強く、研究を続けるうえで大きな励みとなります。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
調和系工学研究室 教授 川村 秀憲

[北海道大学奨学寄附金制度について](本学への寄附金については、税法上の優遇措置の対象となります)
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本年もご愛読いただき、ありがとうございました。
どうぞ良いお年をお迎えください。

◇ 次号は、2023年1月6日に配信する予定です。
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