2022年5月27日配信

こんにちは。
北海道大学調和系工学研究室(川村秀憲教授、山下倫央准教授、横山想一郎助教)です。

雨が降っているところも多いかと思いますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
札幌では、今週~来週に運動会を実施する小学校が多くあります。
コロナ禍で中止、延期、大幅な縮小を余儀なくされていた学校行事ですが、少しずつ元に戻ってきているようです。
天気が良くなるといいですね。

では、本日もどうぞよろしくお願いいたします。

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◇ 本日のTopics ◇

【1】調和系工学研究室WHAT’S NEW

【2】こんな本を読んでいます

【3】第8回「Sapporo mirAI nITe」前編

【4】札幌のテック・コミュニティと、協働で生まれる可能性

【5】調和系工学研究室関連企業NEWS

【6】人工知能・ディープラーニングNEWS

【7】今週のAI俳句ランキング

【8】AI川柳

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【1】調和系工学研究室WHAT’S NEW

★ 「AI研究者と俳人 人はなぜ俳句を詠むのか」が各所で紹介されました

2022年5月21日の朝日新聞、および5月22日の北海道新聞にて、俳人大塚凱氏と川村教授の対談本である「AI研究者と俳人 人はなぜ俳句を詠むのか」(dZERO社)が紹介されました。

また、思潮社から刊行されている「現代詩手帖」5月号の中で、連載「句がふるえる」でも取り上げていただきました。

本書は2022年3月に出版され「知能とは何か」「人はなぜ俳句を詠むのか」という問いの答えを求め、AI研究者と俳人が対話をする内容となっています。

ご興味がある方はぜひご一読ください。

[「AI研究者と俳人 人はなぜ俳句を詠むのか」(dZERO社)]

[朝日新聞] (お読みいただくにはログインが必要となります。)

[北海道新聞](お読みいただくにはログインが必要となります。)

[現代詩手帖5月号(思潮社)]

★ 研究室に関連する企業・ベンチャーのニュース

ソラコムの公式ブログにAWL株式会社の代表取締役社長 兼 CEOの北出宗治氏のインタビューが掲載されました。

「店舗の未来をAIカメラで切り拓く!AWL株式会社インタビュー」と題し、AWL株式会社の設立経緯や、主力ソリューションであるAWL Liteの特徴などが語られています。

ご興味のある方はぜひお読みください。

[ソラコム公式ブログ]

[AWL株式会社]

【2】こんな本を読んでいます

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか
ロバート・B・チャルディーニ (著), 社会行動研究会 (翻訳)

本日ご紹介するのは、世界でロングセラーを続ける、アメリカの社会心理学者の名著です。
情報が氾濫する社会で、騙されたり、丸め込まれたりしないためにはどうすれば良いのかが解説されています。

[感想]

「なぜ人は怪しげな話に乗ってしまうのか?」落ち着いて理性的に考えたらとても乗らないような話に乗ってしまったという話はよく聞きます。たとえ詐欺ではなくても、食品売り場での対面販売で大した欲しくないものを買ってしまったり、いつの間にか最初に思っていたのとは違う高い車を買ってしまったり。このような話の本質は、人の意思決定が決して合理的ではなく、進化の過程で埋め込まれた性質や感情の仕組みに深く関係しています。人は、人に恩を受けたら意識せずとも受けた以上の恩を返さないと気がすまなかったり、相手が譲歩したら次は自分が譲歩する番だと思ったり。世の中の広告やマーケティング、営業などはこのような性質を十分に利用する方法であり、また、対人関係や友人関係も強くこの性質に影響を受けます。いろいろと科学的な知見も交え、人の性質を明らかにしながらそのような怪しげな話に振り回されないための対処法も述べられています。ビジネスをする上でも役に立つ話題が多数あり、いろいろな意味でとても参考になる本なので、一読をおすすめします。(川村 秀憲)

【3】第8回「Sapporo mirAI nITe」前編

札幌は昔も今も、これからのミライもITの本場でありたい。

そんな想いから2021年度はたくさんの情報をお伝えするため、さっぽろのITの「イマ」と「ミライ」を知る、「Sapporo mirAI nITe」が開催されました。

各セッションでは、AIやAR/VRなど先端技術やユニークなビジネスアイディアを持つ企業と札幌市における様々なITの取り組みを紹介しました。

その最終回の配信が4月7日(木)から始まりました。(https://www.youtube.com/watch?v=ixi8xCBzepk)

最終回は「ヒトとAIが共存するミライ~札幌AIラボ 令和3年度最終講義~」と題し、川村教授が講義者となり、聞き手に北海道コカ・コーラボトリング株式会社 成長戦略策定室室長 三浦世子氏をお迎えし、一般財団法人さっぽろ産業振興財団 IT産業振興課長 佐々木諭志氏の進行で行われました。

今回は前編のお話をメルマガでも紹介させていただきます。

― 「AI・人工知能」は脅威か?

川村  全8回あっという間でしたが、札幌のIT関連の企業の方のお話や、北大の病院の先生のお話など、幅広い方々のお話を聞いてきましたね。

三浦  医療現場でのAIの使われ方は知らないことだったので、画像の処理や画像認識のAIがここまで進んでいて、本当に色々な分野の方々が必要とされ、ご活躍されているのだなと思い、大変勉強になりました。

川村  AIは、普段の生活の中で、「これがAIだ」と目にする機会は滅多にないじゃないですか。

三浦  AIが日常に組み込まれていることに驚きました。

川村  例えば、ものづくりの工場で良品、不良品判定をするとか、装置の調整をするとか、それが人のように考えるAIかというと、違うのですが、画像認識であればディープラーニングの技術が使われたり、ロボットの動作や調整に機械学習と言われる技術が使われたり、裏ではそのような仕組みが入ってきていて、気づかないうちに我々の生活を支えているというような状況になってきています。

三浦  「人工知能」と言うと、昔は乗っ取られるのではないかというイメージがあった気がしますが、mirAI nITeを通じて学んできたAIは、人の生活を支えているんだなというのがよくわかりました。

川村  「人工知能」は、SF的な、人のようなというイメージはありますが、実際はコンピューター上で動いている、たかがプログラムとも言えます。コンピューター上で動いているということは、「計算」ですよね。ディープラーニングや、色々な画像認識ができたり、最近だと作文をしたり、その作文が人が考え、作ったようなレベルになってきていますが、それでも基本は全て計算からできているわけです。

― 「AI・人工知能」の定義とは何か?

三浦  計算が文章になるというのが、とても不思議な感じがします。人工知能とは、結局何なんだろうと。

川村  一番難しい問題じゃないですかね。その問いに答えが出せたら、人工知能は完成していると言えるかもしれませんね。「人工」は人が作ったものなので、わかりやすいですけれど、「知能」は何だと言うことです。我々人工知能を研究している研究者でさえも、統一的な定義はなく、何をもって「知能」というのかは人それぞれ考えがあるんです。

脳を人工的に作るといったときに、何を作ったら、「できた」と言えるのかということです。

三浦  完成形がわからなくなりますよね。

川村  辞書で調べると、2つあって、1つ目は「人のように考える力」、パッと聞くとそうだよねと思うのですが、よくよく考えてみるとこれでは定義として不十分なところがあるんです。「人のように考える」と定義されたとすると、例えば、人によって考えはバラバラですよね。みんなバラバラなことを考えることもありますよね。もちろん多くの人が同じように考えることもありますけれど。では、どれを真似したら知能ができたと言えるのだろう。

正解が有り得るとなったときに、ではコンピューターが出した答えがそれは知能と言えるのかということは、正解が決められないですよね。

三浦  人によって違いますよね。簡単なところで、文系か理系かでも違いますし、情緒的に考えるタイプなのか、頭で考えるタイプなのかでも違いますしね。

川村  では、どういう風にコンピューターが答えを出せば人と同じレベルになったのかというのも、それだと難しいですし、ではこれから人工知能に活躍して欲しいところは、人だともう考えが及ばないとても難しい問題や、なかなか人では決められないというところにも人工知能を応用したい、それで人を助けて欲しいということを考えると思うんですけれども、「人のように考える」だと、人を超えられないから、それでは人工知能ではないということになるんですね。というように考えると、「人のように」や「誰かを真似する」と知能かと言うと、それだと定義として収まりが悪い。人のように考えるといっても、難しい。

2つ目としてよく出てくるのが、生物が自然界の中で生き残っていくときに、色々行うような情報処理というのを「知能」と呼ぼうという考え方です。

三浦  環境に適応しながら、ということですか。

川村  これだと、環境によって、状況によって答えも変わるし、生き残っていくために色々なやり方があれば、人それぞれ違う答えを持っても良いし、人かロボットかわからないですけど、それが生き残っていくために行うような情報処理であれば、人を超えてもその定義というのは適応できますよね。

三浦  人発信で考え、「人のように」と言ってしまうと、どんな人なのとなってしまいますが、条件や環境というパラメータがあって、その環境の変化に合わせて順応しながら、持続可能に生きていく、もしくは決断していくというのが知能だと考えると、色々な可能性が出てきますね。

川村  これが大昔、自然の中で人が生きていた時は狩りをして、食べ物を拾ってきて、何とか生き残るための知恵だったかもしれないし、現代社会ではそうやって生きていくということは、ほぼないので、ちゃんと仕事をして、ちゃんと給料をもらってということができないと生き残っていけないし、もしかしたら、未来はもっと違った形で何か情報を処理していかなければ生きていけないかもしれないし、そのように知能が処理する情報は、どんどん抽象化されていて、高度なものになってきていると思うんですが、恐らくこの先もずっと続くわけですね。その中で、きちんと上手に生き残っていけるための情報処理と考えると確かに、定義として先ほどよりは、わかりやすいし、当てはまりが良い気がします。

三浦  そのように人工知能を考えたことがなかったです。

川村  高度な知能になるとそうですけれど、例えば虫とか、最近ですとウィルスは生物か無生物か、と判断が分かれますけれども、ウィルスだって生き残っていくために、情報処理して進化していくわけですよね。虫や、動物や植物だって、同じようなことをしているとなると、では虫は知能を持っているのか、細菌は知能を持っているのか、そう考えると、僕の考えとしては「知能がある/ない」と言ってしまうと、では、ねずみに知能があるのか、ミミズに知能があるのかという話になっていきます。元々知能の定義が生きていくためにする情報処理であって、その対象がどんどん高度化、抽象化していくと、「ある/ない」ではなくて、段階的な、「ちょっと知能がある」や、「まあまあ知能がある」、「かなり知能がある」、もっとグラデーションが効いていて、アナログ的な感じじゃないとうまく定義できないのではないかと思います。

三浦  一瞬のことを「これが人工知能だ」と言っているのではなく、積み重なるというか、連続的なものだということですね。

― 一般的な「AI・人工知能」の定義とは

川村  一般的にはコンピューターを用いて人間のような知能を実現する事というのが、最初の定義で、わかりやすいと言われていて、これを実現するためには、たくさんの技術があります。機械学習や、ニューラルネットワーク、探索など、人工知能の分野では昔から色々な研究がなされていて、その最先端にディープラーニングと呼ばれる技術があります。

三浦  PPT* に書かれている全部が人工知能ということですか。

*技術:機械学習、ニューラルネットワーク、進化型計算、探索、プランニング、ベイジアンネットワーク、SVM、最適化、ファジィ理論、述語論理、知識ベースシステム、推論、自然言語処理、画像処理など

 対象:人間、生物、社会、産業、福祉、サービス、ロボット、ソフトウェアなど

川村  まだまだ、様々な研究がなされてきているので、挙げたら切りがないですけれども、一つ一つがもう人間と同じくらいのレベルで、「人間のような」と言うと、先ほどの答えが「ある/ない」の時どうなるかという話になりますけれど、レベル感として人間ぐらいの知能ですね。それを実現させたいということで、これまで色々な試みがなされてきていて、上手くいかなかったり、ある問題だけ上手くいったりと。

三浦  この中で今一番上手くいっていると先生が思われるのは、どの分野ですか。

川村  最近、ディープラーニングが出てきて、ディープラーニングがさらに発展したのがニューラルネットワークというものなんですが、このニューラルネットワークというのは、例えば機械学習と結びついたり、SVMと呼ばれる技術と結びついたり、それで画像認識ができたり、自然言語処理ができたり、一つ一つがバラバラというよりも、それぞれ色々なかたちで結びついたり、2つ、3つ組み合わせて新しい技術になったりと、どれがと言うよりは、こういうものが色々組み合わさって色々なことができるようになったという感じだと思います。

―「AI・人工知能」の歴史

三浦  聞いたことがある言葉もたくさんあるのですが、対象が人間だけではなく、産業そのものが対象になるんですか。

川村  1956年に、当然コンピューターなのでプログラムで動くんですけれども、そのプログラムを使って人のような柔軟な情報処理をさせたいということで、そのような分野というか、技術を何と呼ぼうかということで、「人工知能」という言葉が出てきたと言われています。この頃はコンピューターが少し研究も含めて使われ始めたタイミングで、人工知能は、ほとんどコンピューターの普及と一緒に研究されてきた分野と言えると思います。

三浦  こんな昔に、生まれる前から、人工知能という言葉があったことに驚きます。

川村  1956年のダートマス会議の中で、今の人工知能で研究されていることに繋がるようなテーマがたくさん出てきたんですけれども、当時のわかりやすい一つのターゲットとして、例えばチェスをするコンピューターを作ろうという、それが一つ人間の知能の証と言うんですかね、チェスで上手にプレイできるというのが知能の証だという風に考えられていて、それでチェスが一つのベンチマークになって研究されてきたので、最初の頃はチェスとそれに近いような推論や、探索、プランニングなど、そういうようなことが主に研究されてきたという歴史があります。

三浦  チェスというのが、さすが海外で始まったという感じがしますけれども、今将棋の藤井棋士もAIと戦ってトレーニングをしているという話もありますが、どんどんAIの技術と言いますか、精度が上がってきているのかなというように感じます。

川村  ちなみに1956年のダートマス会議でチェスが一つの目標だと言って研究がなされ、ハーバート・サイモンという偉い研究者は、すぐにコンピューターが世界チャンピオンに勝つと言ったんですけれども、実際に世界チャンピオンをAIというかコンピューターが負かしたのは1997年だったかな。40年かかったんですよね。

―「AI・人工知能」と人間の考える力

三浦  それだけ、人間の考える力、戦略を練る力というのはコンピューターでさえも追いつけないほどであるということですか。

川村  コンピューターがやっている計算ともちろん人間がどう考えているかというのも違うんですけれども、それでも人がこういうゲームで考える力というのは、1956年に簡単に人を負かせると思ったほど、弱くはなかったということですね。

当時私まだ大学の学生でして、ニュースをよく覚えているんですけれども、IBMの技術者たちが作った「ディープ・ブルー」(当時のスパコン)が、ガルリカスパロフという世界チャンピオンを負かしたんですよね。

三浦  私、G検定の何かで読みましたよ。

川村  僕らからすると、ついに世界チャンピオンを負かしたのかという感じで感慨深かったですけれど、多くの人の感想は、とうとう人がAIの軍門に下ったという微妙なニュアンスでした。

三浦  ちょっと物悲しいというか。

川村  当時、僕は「これで人類の未来はとても明るいな」と思ったんです。どういうことかと言うと、IBMの技術者の中にはもちろんチェスのエキスパートはいましたが、でも自分たちの中に世界チャンピオンはいないので、弱い人たちが集まってプログラムを作ってきたわけですよね。コンピューターという道具を使ってチェスをするということと全然違うというか、プログラミングを組み合わせていって、コンピューターで実行することでチェスをさせる。それによって自分たちのチームの中にはない力を実現できたわけです。ということは、人工知能やコンピューターの力を使って人類が未解決、もしくは人類の力だけでは解決できない重要な課題にぶつかった時に、コンピューターを使って、AIを使って、それを乗り越えていけるんだと。

三浦  未来にそういう課題があったとしても、人間の考えが及ばないことをAIと共に、AIとはいえ、チームの一員みたいなそんなかんじなのでしょうか。

川村  最近の話題でいくと、google傘下のディープマインドという会社が核融合炉のプラズマの制御にAI、ディープラーニングを使って成功したというニュースが流れたのですが、核分裂を使った今の原子力発電は事故があると危ないのですけれども、核融合、太陽の原理ですよね。これは事故が起こったとしても基本的に放射線物質が多量にもれるということもないので、未来のエネルギーとしてとても期待されているのですが、制御が非常に難しいんですよね。プラズマを維持して、太陽のように自分のエネルギーで、また自分が反応していって、またエネルギー作るという核融合の研究は、ずっとなされているのですが、ほとんどまともな形でそれを維持することができなかったのが、AIの技術を使って、できるようになるとすると、新しい原子炉に代わるようなエネルギーが人類を救うかもしれないですよね。

三浦  今の情報だけでは成し得なかった、難しいとされていたことがAIを活用することによって安全にコントロールができてしまうというのは、新しい視点を人間が持てるようになるのかなとも思いますね。

― 「弱い人工知能」と「強い人工知能」

川村  そう考えると、1997年に人が負けたということは、僕は非常に肯定的に捉えていて、少し話を戻すと、そうやって人工知能が使われ始めてきているんですが、今メディアや新聞で見聞きする人工知能の応用というのは限られた分野、限られたタスクの中で表面的に見ると、人の代わりをしているような、人の知能の代替として動いているような、そういう機械のことを言っていますね。このような人工知能を「弱い人工知能」と呼ぶことがあります。人のように本当に考えて課題解決しているわけではなくて、画像認識であれば、画像認識、一部の問題で実際には上手に作られた問題の中で、人にちょっと勝てるかも知れないというところの応用ですね。

三浦  まだ、使い手が人ということですよね。

川村  研究者として作りたい人工知能というのは、やはり人と対等に会話したり、人と同じように考えたり、人と同じレベルでコミュニケーションができたり、心や意識を持っていたり、そういった人工知能なんですね。では、どうやって作るんだろう、その原理は何なんだろう、どうすればコンピューター上に出現できるのだろうということを考えているんですが、そういう人工知能を先ほどの「弱い人工知能」と対比して、「強い人工知能」と呼んだりもします。

(次回:「GPT-3の台頭と日本での実用化」へつづく)

【4】札幌のテック・コミュニティと、協働で生まれる可能性

2022年2月12日にオンラインのコミュニケーションツール「SpatialChat」上で「札幌のテック・コミュニティと、協働で生まれる可能性」と題し行われたMedia Arts Meet-upに川村教授がゲストとして参加しました。

Media Arts Meet-upは、札幌クリエイティブカンファレンス「NoMaps」関連イベントとして2017年から実施されている、メディアアーツにまつわるミートアップです。

今回は、川村教授のほか、未完プロジェクトの西村航氏、Code for Sapporo / Code for Japanの古川泰人氏が参加し、NoMaps実行委員 / 株式会社トーチ代表のさのかずや氏がモデレーターを務めました。

その様子をメルマガでも紹介させていただきます

― 札幌のテックコミュニティの現在地

まずは、SpatialChatの登壇機能を使い、それぞれのテック・コミュニティについて、ゲストのみなさまにご紹介いただきました。

◆ 未完Project 

未完Projectは、地方×デジタル×若者というテーマを掲げ、学生向けのハイレベルなテッククラスコミュニティの形成を目的に、2020年の2月、IRENKA KOTAN合同会社とコミュニティアンドプロジェクトグループ合同会社が共同で立ち上げたプロジェクトです。

西村  「特に地方の若者世代をターゲットとし、技術を学び合う場と、学んだことを社会に活かしていく共創の体験作りを軸に事業をやっていきたいと考えています」

2020年9月にはエンターテイメント領域のエンジニアに必要とされる技術を学ぶイベント「Entertainment Dev with mixi」をmixiと合同で開催し、10月にはモバイルアプリやXRが広がっている昨今、それらに実際に関わっている方からテクノロジーの最先端領域を学ぶイベント「xR / Flutter Dev Day」をNoMapsとの連携企画で開催しました。

また、イベント運営のほかにも、北海道に住むエンジニア志望者の高校生、大学生に開かれたコミュニティベースの学びの場として、未完Laboを運営しています。

西村  「『自ら興味を持って調べ、手を動かして作ってみる』という一連の流れは、エンジニアにとって大事な体験だと考えています。毎週開かれる未完Studyというワークショップや、ハッカソンは、そんな体験を提供し、独学でどんどん突き進んでいけるエンジニアを育成することを目指しています」

事務局長を務める西村さんですが、プロジェクトに関わるきっかけは中学時代の経験でした。

西村  「中学生でITのエンジニアリングの世界に足を踏み入れた時、コミュニティに入りたくても、大学生向けだったり敷居の高さを感じたりして、入るのが難しかったんです。なので僕は独学で学んできました。そういった経験があったので、一緒に学び合える環境の重要性を強く感じています」

2021年2月で一周年を迎えた未完Projectですが、課題も見えてきました。

西村  「これまでの活動はコミュニティという形態で、『学ぶ』と『つくる』の二段階で運営してきましたが、技術は使う形にまで落としこまないと、実際に使える人材やローカルの課題を解決できる人材の育成は難しいと気付きました。そこで視点を『使う』にまで伸ばす必要があると考え、2021年の春に一般社団法人化し、キャリア支援や、高度な技術を学ぶ未完ルートという新たなプログラムを展開する予定です」

◆ Code for Sapporo / Code for Japan

Code for Japanは、地域の課題を市民がコードで解決するコミュニティ作りを支援する非営利団体です。 国内では約80グループが活動しています。

古川  「Code for JapanやCode for Japanに関連するコミュニティが一番大事にしているのは、『ともに考え、ともにつくる』ことなんです」

市民がテクノロジーを活用し、課題を解決する取り組みをシビックテックと呼びますが、Code for Japanの活動はシビックテックそのものです。

古川  「シビックテックやテクノロジーのコミュニティは、人の生存を脅かすようなリスクが発生した時に、とても力を発揮しますよね。コロナ禍では、Code for Japanとオープンソースコミュニティで、コロナ感染症対策サイトをつくりました。そのあと、Code for Sapporoを含むいくつかのコミュニティのメンバーで、北海道の新型コロナウイルスまとめサイトもつくりました。このときは、行政の方も一緒に入っていたので、お願いしてオープンデータにしてもらったんです」

こういった取り組みは、テクノロジー、データ、そしてデザインの3つを合わせたシビックテック的アプローチのもとに行われています。

古川  「国内外のシビックテックコミュニティとして、政治を可視化する様々な活動があります。過去には、選挙区ごとに候補者の実績が調べられるイギリスのサイト、TheyWorkForYouを参考に、衆議院選挙候補者に関するオープンデータとその検索サイトを作成しました。最近では、条例について議論ができるバルセロナ発のプラットフォーム、Decidimのローカライズに取り組んでいます。オープンガバメントが謳われる昨今、信頼性や透明性を向上させる手段として、行政にもデータドリブンなDXが必要とされているわけです。また作成したツールをオープンソースにすることは、税金の効率的な運用にも繋がります」

最後にテクノロジーに関わる際の心構えとして、古川さんが最近心に刺さった言葉を教えてくださいました。

古川  「鳥嶋和彦さんという少年ジャンプ編集長の言葉なのですが、『頭の中にある傑作を早く世の中に出して駄作にしなさい』と。早く駄作にしてレビューをもらった方がいいんです」

始めから完璧につくる必要はなく、レビューをもらいながらアップデートし続けていくことが大切なようです。

◆ SAPPORO AI LAB

SAPPORO AI LABは、AIを中心に研究開発ができる集団として、札幌市が主体となって作ったバーチャルなラボです。川村先生は、AIの社会応用に力点を置いて研究をする傍ら、SAPPORO AI LABを立ち上げ、ラボ長としても活動しています。

川村  「札幌を含め、北海道全体のIT産業は、日本の中で下請けの仕事を多く受注しています。多くは一月単価の仕事ですが、この先エンジニアがどんどん増えていくわけではないので、続けるにも困難が生じます。一方、この先AIを真ん中に置いたシステム開発や事業開発は必ず起きてくる。それに対応する団体として、SAPPORO AI LABが生まれました」

出発点は、川村先生の、産学官の連携によるAIの研究開発の体制をつくる提案でした。

川村  「北大をはじめとしてAIを研究している大学がありますし、北大発ベンチャーでAIを中心に研究開発をする会社もあります。そして、システムをつくる会社も札幌の周りには多い。ですから、そこが連携して、AIのロジックは研究者が担い、システム化や応用はそれを得意とする会社が担い、AIを組み込んだものづくりができるというブランディングをし、東京の会社から直接仕事をもらうようなことができないか?と、行政の方々や、周りの人に話していました」

メディアからも注目を集めている活動のひとつに、AIによる俳句生成があります。

川村  「『AIが日本語を理解するとは、どういうことか』をテーマに、AIに俳句を理解させたり、作らせることを目指しています。俳句ではなく、川柳をAIに作らせるオファーをNHKからもらい、夕方5時のNHKニュースでキャラクターが時事ネタの川柳を読み上げるコーナーを持っていました。最近は、このプログラミングをドイツでやりたいという連絡ももらっています」

様々な方面から関心が寄せられているSAPPORO AI LABの活動ですが、バーチャルな活動ならではの難しさもあるようです。

川村  「バーチャルなラボの活動なので、組織的に動くことが難しいですね。毎年いろんな講演会やセミナーを IT業界に向けてオープンにやっていますので、こういった場面で札幌の他の団体と一緒に連携してなにかできたら面白いなと思っています」

― 札幌のテックコミュニティが向かう先

それぞれの活動を紹介していただいたところで、活動拠点としての札幌に関する質問からディスカッションが始まりました。

さの  「札幌で活動を続けるうえで、いいところも難しいところもあると思うのですが、その意味をどんなところに感じていらっしゃるのでしょうか」

西村  「札幌には、北大さん、千歳科学技術大学さん、情報大学さん、周辺だと苫小牧高専さんや室蘭工業大学さんといった、IT、エンジニアリングの学校が多いと思うんです。そこで勉強する学生たちを横に繋げたい思いもありますし、エンジニアを目指し立ち上がったときや、なにか作りたいプロダクトがあるときに助けになりたい思いもあり、札幌で活動しています」

本州で活動することもある古川さんは、その経験を通して見えた札幌の特徴を挙げます。

古川  「まず札幌のいいところですが、本州の行政やコミュニティでコンサルティングするときに出くわす、話を通す順などの複雑な人間関係がないところですかね。難しいところは、土地が広いから人同士の距離が遠くて、連携が取りにくいところだと思います。オンラインがすべてだとは思いませんが、どうしたらいいのかは昔から考えているところですね」

地理的な問題を踏まえたうえで、川村先生は、能動的に地域外に出ることの大切さを語りました。

川村  「道内だけではなくて、日本の規模で考えても地理的な問題がありますが、面白いことをしている人たちにもっと会いにいくことが大事だと思います。たとえばイスラエルはテクノロジー大国ですが、宗教を考慮すると、僕たちと同じような生活を送っている人口の規模は北海道と同じくらいです。そう考えると、札幌に住む僕らが外に対して壁を作っているだけで、本当はもっとできることがあると思うんです。その壁を崩し、札幌というコミュニティが溶けて、東京はもちろん世界と交わることを目指さないとだめなんじゃないかと考えています」

「壁を崩す」という言葉に、ゲストのみなさんが頷きます。

西村  「自分たちも、札幌という区切りが壁になるのはよくないと感じているので、たとえばイベントの際は、講師を東京のエンジニアの方々にお願いして、東京の水準に合わせた学びが得られるようにしています。そして、逆に内側に目を向けると、未完Projectは札幌が拠点ですが、興味関心があれば、北海道全域、北海道以外の人が参加してもいいのではないかとも正直思います。ですので、そういった点で自分たちができることからやっていきたいです」

さの  「札幌にいながらでも世界と繋がって活動できる方法があると思いますし、未完プロジェクトやCode for Japanが生み出している連携が、まずは身近なところ、札幌や北海道の垣根を越えていく活動になっていますよね」

川村  「いまリモートワークの形態が浸透して、札幌のITエンジニアが札幌の会社を辞めて、フルリモートで東京の会社に雇われることが多くなっています。エンジニアにとってはチャンスが広がることでもあるのですが、札幌の会社にとっては厳しい状況です。しかし一方で、日本中の会社に就職できて、住環境の面で札幌が好きだから札幌にいるという働き方ができるようになるわけです。エンジニア同士の 競争が激化して、できる人はどこでも評価されるし、もちろん逆のことも起こる世界になっていくんだなと意識しています」

ただ単に地域の壁がなくなるだけでは、格差が広がる。だからこそ「壁を崩す」「垣根を越える」能動的な活動がより重要になってくることが伝わります。そして、競争の激化はエンジニアを雇用する側にも起こっているようです。

古川  「会社側の競争も激化していて、いまはエンジニアを採用できる倍率は9倍ほどです。札幌で働くことのどんなところがいいのか、自分たちの付加価値はどこにあるのか、いつも悩んでいます。ここで気になるのが、札幌への移住支援の助成金は、1都3県の特定の地域から引っ越してくる人にしか支給されないことです。その範囲が広がれば、札幌に引っ越しやすくなり、もっと人が集まるかもしれないですよね」

移住に関連して、さのさんが福岡市の取り組みを挙げ、今後の札幌のテック・コミュニティへの思いを語りました。

さの  「先日福岡に行った際に聞いた話なのですが、福岡市はエンジニアフレンドリーシティの取り組みを支援しているみたいです。この取り組みによって、東京の会社が福岡にオフィスを作ったり、福岡でリモートで働きながら東京の会社の仕事をする方がいたり、福岡にもスタートアップが生まれたりしているとのことでした。先ほど川村先生がおっしゃっていたような、いい面も悪い面もありますが、東京の会社で働く札幌の人も、札幌の会社で働く人も、札幌だからこそやれることや、やったら面白いことなど、うまく協力していける部分があったらいいのかなと思っています 」

別々に活動していた団体の方々がこうして集い、話すことで、札幌という都市を軸に据えた協働の可能性が見えてきたディスカッションでした。

[札幌のテック・コミュニティと、協働で生まれる可能性]

[未完Project]

[Code for Sapporo / Code for Japan]

[SAPPORO AI LAB]

【5】調和系工学研究室関連企業NEWS

★  クレスコ・デジタルテクノロジーズ、光合金製作所との協業により、公共トイレから街全体を見える化できるIoTシステム「ソーシャルトイレシステム」を販売開始

【6】人工知能・ディープラーニングNEWS

★ AI traffic light system could make traffic jams a distant memory

★ rinna社、日本語に特化した言語画像モデルCLIPを公開

★  Googleの対話特化型AIとスマホで語り合えるアプリ「AI Test Kitchen」が自然すぎて完全に中の人がいるレベル

★  深層学習による高精度な積分AI、慶應義塾大学が開発に成功

★  NEC×杉並区、AIで道路灯へ設置したカメラから交通流を分析する実証実験

★  DeepMindが人間レベルにかなり近づいたAI「Gato」を構築、ゲームプレイ・チャット・ロボットアーム操作などが可能

  NTTが画像認識AIでインフラ設備の「錆」を高精度に検出する技術を発表 老朽化の進行/点検コスト増加/点検員不足に対応

★  入力中の個人情報が“送信ボタンを押す前に”収集されている問題 約10万のWebサイトを調査

★  国立国会図書館が視覚障がい者などのためのOCR開発を委託 AIで読書のバリアフリー化を目指す

★  自然言語処理モデル「BERT」の日本語版事前学習モデルが無償公開 商用利用も可

★  AIに頼れば、絵心ゼロでもマンガのキャラクターを描けるのか? Googleの「Giga Manga」を試してみる

★  ソニーAI、カーレーシングをマスターしたAI「グランツーリスモ・ソフィー」を発表 科学誌「Nature」に論文掲載

★  突飛なテキストからも高精度な画像を自動生成できるAIシステム「Imagen」

【7】今週のAI俳句ランキング

AIが俳句をつくる「AI俳句」の普及を目指して、本研究室を事務局として2019年7月に設立されたAI俳句協会のウェブサイトでは、AIが生成した俳句を人が評価して、評価結果を集約したAI俳句ランキング(月間・週間)の集計を行っています。

今週のランキングをご紹介したいと思います。

1位 嘘すこし祈りのごとく雲雀鳴く 

2位 嘘よりも深くなりけり春の月

3位 かたつむり水の上より陽をつかむ

すべて、本研究室が開発した「AI一茶くん」が詠んだ句になります。

「AI一茶くん」は1日1句投稿していますので、ぜひ俳句協会ウェブサイト( https://aihaiku.org ) もご覧ください!

【8】AI川柳

調和系工学研究室では、毎日新聞社「仲畑流万能川柳」や第一生命保険「サラリーマン川柳」を学習用の教師データとした「AI川柳」に取り組んでいます。

2020年3月までの1年間「NHK総合 ニュースシブ5時」にて、その週の話題のニュースのキーワードをお題に、バーチャルアナウンサー「ニュースのヨミ子」さんが詠んでいたAI川柳も、本研究室が開発した人工知能システムです。

多くの皆さんに楽しんでいただけるよう、2020年6月にAI川柳のTwitterアカウント( https://twitter.com/ai_senryu )を開設いたしました。

AIの中には詠んだ句の良し悪しはないためそれを良いと思うのは人間の側で、そう思うことで初めてAIの詠んだ句が意味を持つのではないでしょうか。

AIが詠んだ句に共感していただけましたら大変うれしく思います!

★ お題「新緑」(5月16日投稿)

 新緑の空を見ている人の数

北大構内は自然がたくさんあります。

行動制限もなくなり、新緑の木を見上げる人が、増えそうです。

★ お題「ことば」(5月18日投稿)

 ロボットのことばを聞いて通過する

自動音声応答システム搭載ロボットは増えてきていますよね。

人間だけではなく動物と話をするロボットも出てくるかも??

★ お題「天ぷら」(5月23日投稿)

 天ぷらを健康法と思ってた

外国人にも人気がある天ぷら。

美味しいですよね。

実は疲労回復にも適しているのだとか。

【ご寄附のお願い】

人工知能によるイノベーションでより素晴らしい世界を実現することが、私たち調和系工学研究室の使命であると考え日々研究に取り組んでいます。

大学での研究活動には、研究に必要な機器の整備のほかにも、学生の学会への参加や論文投稿など研究費が欠かせません。

私たちの取り組みにご賛同いただけ、応援のご寄附を賜れましたら大変心強く、研究を続けるうえで大きな励みとなります。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

調和系工学研究室 教授 川村 秀憲

[北海道大学奨学寄附金制度について](本学への寄附金については、税法上の優遇措置の対象となります)

お問い合わせ先:http://harmo-lab.jp/contact

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

◇ 次号は、6月10日に配信する予定です。

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