2022年1月7日配信
明けましておめでとうございます。
北海道大学調和系工学研究室(川村秀憲教授、山下倫央准教授、横山想一郎助教)です。
今週が仕事始めの方も多かったと思いますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
札幌では今年に入ってから雪がよく降り、連日雪かきに追われています。
晴れていると安心していた次の瞬間には猛吹雪と、安定しないお天気の日もありますので、移動の際には十分お気を付けください。
では、本年もどうぞよろしくお願い申しあげます。
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◇ 本日のTopics ◇
【1】新年のご挨拶
【2】調和系工学研究室WHAT’S NEW
【3】こんな本を読んでいます
【4】Acaric Journal Vol.2 前編
【5】第2回「Sapporo mirAI nITe」
【6】人工知能・ディープラーニングNEWS
【7】今週のAI俳句ランキング
【8】AI川柳
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【1】新年のご挨拶
[調和系工学研究室教授 川村 秀憲]明けましておめでとうございます。
皆様におかれましては輝かしい新年をお迎えのこととお喜び申し上げます。
年始にあたり、昨年をまずは振り返ってみたいと思います。
新型コロナウィルス感染症ワクチンの接種がはじまり、私たち調和系工学研究室も少しずつではありますが、学生のゼミや研究指導を対面で行えるようになりました。
今まで意識していなかった直接顔を合わせてやり取りする何気ない会話が、新しい視点や発想のもとになっていたことに気づき、つながりの大切さを再認識することができました。
研究室の取り組みとしては、2017年から始めた人工知能に俳句を生成させる研究を一冊の本にまとめることができました。
7月にオーム社から出版した『人工知能が俳句を詠む AI一茶くんの挑戦』は、人工知能に興味がある方、俳句に興味がある方、そして人の知能に興味がある方たちにも読んでいただける内容を心がけ執筆しました。
この研究を通して、人の知能とは何か、人との相互作用に耐えうる人工知能をどう構築するのかといった問いの答えに近づくことができれば、人工知能が生活のさまざまな場面で人と一緒に考え、人を助け、ともに調和しあえる社会をつくることができるかもしれないと考えています。
新聞をはじめとする様々なメディアで取り上げていただきましたが、あまり研究者が馴染みない週刊誌などでも紹介していただき、貴重な機会に感謝しています。
本研究室に多額の奨学寄附を賜りましたことも、この場をかりて改めてお礼申し上げます。
大学での研究活動には、研究に必要な機器の整備のほかにも、学生の学会への参加や論文投稿など研究費が欠かせません。
応援してくださる方々がいることは大変心強く、研究を続けるうえで大きな励みとなります。
また、私も携わっているベンチャー企業にとっては大きく前進した年となりました。
調和技研ではこれまでは顧客ごとにAIエンジンを開発してきましたが、今後は従来手掛けてきたAIエンジンの汎用性を高め、ライセンス方式にも力を入れることで安定収益の基盤を築いていきます。
シリーズBラウンドで総額20億円の資金調達を実施したAWLは、一年前と比べ企業価値が2倍を超えました。
コロナ禍という困難の中、今自分たちに何ができるのかを考え、素早く行動に移したことが大きな成長に繋がったのだと思っています。
AIを使った恋愛ナビゲーションサービス「Aill goen」を展開するAillも、この一年で登録企業数が2.5倍以上の780社を超えました。
企業の福利厚生サービスとして、仕事も家庭も一緒に支え合えるかけがえのないパートナー探しをお手伝いすることで、ライフ面でのサポートを実現するだけでなく、少子化対策に微力ながらも貢献できれば幸いです。
2022年も引き続き、人工知能によるイノベーションで何ができるのかを常に考えながら、全力で取り組んでまいります。
最後に、皆様のご健康とご多幸を祈念し、年頭の挨拶とさせていただきます。
コロナ禍というイレギュラーな状況で世の中がどんどん変化していますが、未来のことだけを考え、今年もぜひ一緒に新しいことにチャレンジしていきましょう!
[調和系工学研究室准教授 山下 倫央]明けましておめでとうございます。
皆様のご健康とご繁栄を心からお祈り申し上げます。
本年もよろしくご指導とご鞭撻のほどお願い申し上げます。
一昨年からの続くコロナ禍にもかかわらず、積極的に研究者の方々、企業の方々と共同させていただくことができました。
皆さまに多くの学びの機会を与えていただき、感謝を申し上げます。
昨年秋には緊急事態宣言の終了を受けて、調和系工学研究室のゼミ体制は対面とオンラインのハイブリッド形式で実施をしております。
研究室に学生の姿が少しずつ戻ってきて、活気を取り戻しつつあります。
とはいえ、新型コロナウィルス感染拡大の第6波の懸念もあり、「コロナ前」の状況に戻ることは容易ではないと思います。
コミュニケーションツールを駆使して、新しい研究室のあるべき姿を模索しながら、研究を進めています。
研究室の核となるゼミに関しては、オンラインとオフラインの両方のメリットを生かして、研究室としてのパフォーマンスを最大化したいと思っています。
2月7日(月)の卒論発表会、2月9日(水)・10日(木)の修論発表会では、例年以上の研究成果をお見せすることができるよう、スタッフ・学生と一丸となって研究を進めております。
新たな「コロナ後」を目指して、昨年以上に人工知能技術の最先端の研究を進めてまいりますので、本年もご支援を賜りますようお願い申し上げます。
新しい年が皆様にとって良い年でありますようお祈り申し上げ、新年のご挨拶とさせて頂きます。
[調和系工学研究室助教 横山 想一郎]明けましておめでとうございます。
本年が皆様にとって幸多き年となりますようお祈り申し上げます。
昨年3月には調和系工学研究室から5名の学生が学士課程を卒業し、2名の学生が修士課程を修了しました。
10月には5名の学生が新たに研究室に配属されたほか、他大学から2名の学生が大学院修士課程の入学試験に合格し、今年の4月から当研究室に加わる予定です。
ウィズコロナに向けた新しい研究環境を整え、2022年も一丸となって人工知能の研究に取り組み続けたいと思います。
本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
【2】調和系工学研究室WHAT’S NEW
★第20回データ指向構成マイニングとシミュレーション研究会にて発表を行いました
11月27日(土)にオンラインで開催された「第20回データ指向構成マイニングとシミュレーション研究会」( http://collabodesign.org/docmas/2021/11/26/141/ )にて、修士2年の大江 弘峻さんと西浦 翼さんが発表を行いました。
大江 弘峻, 横山 想一郎, 山下 倫央, 川村 秀憲, 多田 満朗 : タブーサーチによる中間補給を考慮した灯油配送計画問題の最適化, 第20回データ指向構成マイニングとシミュレーション研究会, オンライン (2021) http://collabodesign.org/docmas/wp-content/uploads/2021/11/docmas_202111_06.pdf
西浦 翼, 横山 想一郎, 山下 倫央, 川村 秀憲, 佐藤 好美, 長谷川 怜, 平澤 幸 : 深層学習を用いた人物追跡手法によるバス乗降者数の推定, 第20回データ指向構成マイニングとシミュレーション研究会, オンライン (2021) http://collabodesign.org/docmas/wp-content/uploads/2021/11/docmas_202111_02.pdf
発表を行った大江さんには、学会に参加して気づいた点と最近の動向についてレポートしてもらいました。
タイトル「垂直搬送機能の Q 学習による部分解接続最適化手法」
発表者:岡本和也 (国立研究開発法人 産業技術総合研究所)
商品数が多い場合における垂直搬送機の動作を最適化するための手法を提案した研究です。
従来手法のA*アルゴリズムでは搬送する商品数に対して計算時間が指数的に増加することが確認されているため、商品列を絞った状態にてA*アルゴリズムを適用し、その部分解をQ学習で選択させるという手法を提案しています。
実験により、Q学習ベースの学習アルゴリズムの適用によって、搬送能力が向上することが確認されました。
解空間を分割して計算時間を削減させるという手法は僕が行っている灯油配送計画の最適化に関連する内容なので、今後の研究で参考になりそうだと感じました。
今回参加した研究会は、人工知能学会の合同研究会という位置づけだったので、ほかにもたくさんの研究会が合同で開催されていました。
僕が参加した研究会は、シミュレーション系の研究会だったのでコロナウィルス関連の研究発表が多かったです。
シミュレーションベースの研究だと、モデルを作成する際に、作成者の意図や恣意的な内容が含まれるので、そこから得られた結果が本当に意味のあるものなのかを主張するのが難しいと発表者の方がおっしゃられていたことが印象に残っています。(修士2年 大江 弘峻)
研究内容にご興味がありましたら、下記フォームからお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ:http://harmo-lab.jp/contact
★日本経済新聞にて東大・松尾研をはじめとする大学発スタートアップが紹介されました
12月29日(水)の日本経済新聞にて、東京大学松尾豊教授の研究室発スタートアップが紹介されました。
記事の中で、複数のスタートアップが立ち上がった研究室として川村教授も取り上げていただきました。
20年10月時点で、大学発スタートアップの数は約2900社と5年前の約1.6倍になっているそうです。
たくさん有力なスタートアップが生まれ、熱気を感じます。
松尾研に続いて北大の当研究室も頑張っていきたいと思います。(川村 秀憲)
日本経済新聞
[東大・松尾研、起業熱再び 22年は10社前後が創業へ](お読みいただくにはログインが必要となります。)
★人工知能学会誌に『人工知能が俳句を詠む AI一茶くんの挑戦』の書評を掲載いただきました
人工知能学会誌(2022年37巻1号)に『人工知能が俳句を詠む AI一茶くんの挑戦』の書評を掲載いただきました。
編集委員である株式会社スクウェア・エニックスの三宅 陽一郎氏に書評を執筆いただいています。
「本書は実にやさしく丁寧な書籍であり,人工知能分野全体を伝えようという気持ちがこもっている.各解説では専門的なところも含まれるが,中学,高校,そして大学の教養課程でも,教育に役立つことになるだろう.」
ご興味がある方はぜひお読みください。
人工知能学会誌(2022年37巻1号)書評
[川村秀憲,山下倫央,横山想一郎:人工知能が俳句を詠む AI 一茶くんの挑戦, pp. 296,オーム社(2021)]
★研究室に関連する企業・ベンチャーのニュース
『調和技研と大地みらい信金が協定』
12月29日(水)の北海道新聞にて、調和技研と大地みらい信用金庫との包括連携協定ついて取り上げていただきました。
大地みらい信用金庫は北海道根室市に本店があり、主要顧客である釧路、根室管内の企業が抱える人手不足などの課題解決に、調和技研が開発したAIを生かす狙いです。
調和技研が金融機関と協定を結ぶのは初めてとなります。
テクノロジーとファイナンスの組み合わせで地域のDXを後押ししていきたいと思います。
応援をどうぞよろしくお願いいたします。(川村 秀憲)
北海道新聞
[地域の課題、AIで解決 大地みらい信金と調和技研が協定](お読みいただくにはログインが必要となります。)
[株式会社調和技研]【3】こんな本を読んでいます
★突き抜けるまで問い続けろ 巨大スタートアップ「ビジョナル」挫折と奮闘、成長の軌跡
蛯谷 敏 (著)
本日ご紹介するのは、求人サービス「ビズリーチ」を起こした南 壮一郎氏が、創業からわずか12年で巨大スタートアップを生み出したリアルな急成長物語です。
[感想]ビズリーチ創業者の南さんの成長と、ビズリーチ立ち上げの起業物語。
この手のスタートアップはひょんなきっかけから立ち上げた事業がたまたまうまくいくことで生き残っていくケースが多いと思いますが、ビズリーチの南さんは社会課題を綿密にリサーチし、本質にたどり着いて解決策を構築していく手堅い手法でビズリーチを作り上げました。
ビズリーチを立ち上げる前の楽天イーグルス立ち上げのストーリーも面白く、起業マインドを知る上でも興味深い本です。
ビズリーチといえばタクシーCMがおなじみですが、テレビCM、タクシーCMでどうコンバージョンを伸ばすのかを徹底的に考えている点も興味深かったです。
成功する起業とはどういうものか興味がある人におすすめです。(川村 秀憲)
【4】Acaric Journal Vol.2 前編
株式会社アカリクが発行する、大学院生・研究者のためのキャリアマガジンAcaric Journal( https://acaric.jp/special/journal/ )。
大学で勉学・研究に励む大学生・大学院生や、彼らを教え導く大学教員の皆様、学生たちの未来を真摯に支えるキャリアセンターの皆様、各種研究機関や企業にて知を活かし活躍される専門家の方々など、国内・国外を問わず「知の流動」に携わり続ける方々を「研究」し、その流れを加速させることを目指すマガジンです。
Vol.2で紹介された川村教授のインタビュー「AIを通してヒトの本質的役割に迫る ―AI技術が変える研究者の未来―」を、本メールマガジンでもシェアさせていただけることになりました。
川村教授が語った、AI研究を始めたきっかけ、そして人と共存する機械について、前編・後編に分けてご紹介します。
[AIを通してヒトの本質的役割に迫る ―AI技術が変える研究者の未来―]前編
― 研究を始められたきっかけや、現在に至るまでどのような道のりを歩んでこられたのか、教えていただけますか
川村 小さい頃からコンピュータに触る機会がありました。今のようにインターネットもなかったので情報入手には苦労しましたが、おもちゃのようにプログラミングをして遊んでいました。工作少年でものを作るのが好きで、その手段のひとつがプログラミングでした。こんなものを作りたいと思ってプログラミングをしていくと、思い通りのものができて、手順通りに動作して、思った通りに動くわけです。それはそれで楽しかったのですが、次第に物足りなくなり、自分で考え自ら学習して成長するものを作ることへ興味が移っていきました。
大学進学するときに、AIに関することができそうな学科を選び、今所属している研究室へたどり着いたことがこの道に入るきっかけです。工学部なので、他の友人たちは修士まで進学して何の疑問も抱かずに就職活動を行っていたのですが、私は自分の好きなことでご飯を食べていきたい、自分の時間は自分でコントロールしたいと思い、とりあえず博士課程に進学しました。博士課程で成果が出て、予定よりも一年早く2年で博士号を取ることになりました。その後どうしようかと思っていたのですが、たまたま研究室の助教のポストに空きが出て、教員として残ることになりました。大学に入ったときは、その後30年も北大にいることになるとは思いませんでした。
― 研究室の卒業生は、博士課程を短縮で修了されている方が多いですが、北大にはそのような慣習があるのですか
川村 研究室のスタッフは、私と山下先生、横山先生の3名ですが、実はみんな2年で博士号を取得しています。博士号取得の要件は大学によって違いますが、ジャーナル論文採択が何編、国際会議で何回発表する、といった最低限の業績条件があり、その条件がクリアできるのかどうかと、学位論文がまとめられるかどうかが学位審査になりますので、在籍期間は関係がありません。
AIの分野では、この先多数の人材が求められています。我々としては、博士号を持っている人を「AI人材」と呼んでほしいと思っています。学部、修士、博士と指導していますが、修士でやることは、先生に言われたことを自分なりにまとめて、実験も含めて実現するということです。まだ力がついてないというのもありますが、研究というスタイルでAIに向き合うのはまだ難しく、物足りないレベルです。博士になると論文を書いて採択される、プロの研究者と同じようなレベルまでトレーニングすることになります。
世の中に求められているAI開発は研究に近いものになってきています。昔はまだ大学と現場の課題が離れていて、大学よりも現場のOJTでトレーニングした方が良かったのですが、今はAIの研究開発の最新の成果は論文で出てきますし、成果の測り方、評価方法は研究に近づいてきています。ディープラーニングを専門として博士号を取っていれば、その後のキャリアパスを考えても武器になります。今であれば研究成果が出れば我々のように2年で博士を取れますし。
私が学生のときは、自分で学費を工面しなければ博士課程に進学できませんでしたが、今はどこの大学でも経済サポートがあることが多く、また社会に出るのが遅れても、生涯年収で十分ペイできるだけの価値があります。特にAI分野に関しては、博士課程に行くことはとても良いのではないか、と学生にも伝えています。日本の博士課程は大学の最後のプロセスという扱いですが、海外であれば博士課程はほぼ就職です。給料をもらいながら博士課程の大学院生として学位取得を目指すので、当然プロのスタッフとして研究するような形式になっています。日本は学費を払って、親から「まだ大学行くの?いいかげん働いてくれ」と言われてしまうような状況なので、そこも変えていかなければと思います。
― 川村先生のキャリアの変化と、研究を始めた頃のAI分野の状況について教えてください
川村 私が大学に入ったときは、第二次AIブームが終わった頃で、「通商産業省(現:経済産業省)の第5世代プロジェクトが失敗した、AI研究はこの先どうなるのだろう」と囁かれていた時代でした。私はコンピュータが勝手に進化して、賢くなるようなことをやりたいと思っていましたので、AIブームとはあまり関係なく研究室に入りました。研究室では、今でいうニューラルネットワーク、機械学習のようなことをやっていました。その頃はこの分野がどうなっていくのかは見通せませんでしたが、今のAIに続く萌芽的な研究はほそぼそとなされていました。今のように何でもできるわけではなかったですが、原理的には今のAI研究も当時されていた研究も大きくは変わらないと思います。
今ではコンピュータの計算パワーが上がってデータが増えて、できると分かった上でチャレンジするので、様々なことが進みますが、本質的な数式が大きく変わったわけでもありません。ニューラルネットワークは当時からありましたし。しかし、当時の研究者に「今みたいなことが実現できるか」と訊いたら、「原理的にはできるはずだが、現実的にはできない」と答えると思います。
昔の陸上競技の100メートル走で9秒台の記録を出すことは、ずっと成し遂げられてこなかったのですが、ある選手が10秒を切って9秒台を出すと、そこから9秒台が次々と出るようになって、今は9秒台が当たり前になっています。要は、到達できるかどうかわからない時点では、皆が様々なリミットを作るのですが、誰かが突き抜けてしまえば「やっぱりできる」と皆で取り組み始める、ということがAI研究で起こったのだと思います。今AIの研究はとても加速していますが、ディープラーニングをベースにできることにも限界があります。刈り取れる問題はまだたくさんありますが、数年後にはディープラーニングを超えてさらに何を考えなければならないのか、という話題になっていくはずです。
私たちが扱っている感情や感性は、その先にある問題だと思っています。数字で評価ができる問題は、人間よりも機械の方が優秀なので機械に置き換えてしまおう、その延長として「仕事がAIに奪われる」という話があります。しかし、私達が取り組んでいる俳句の研究、俳句を理解して人に対して批評するというようなことは今のAI技術では、まだできません。ファッションや食も同様で、このような話題は「人がいなければ成り立たない問題」が先にあって、その中でAIがどう関わっていくのかということですので、仕事が奪われる話とは関係しません。私たちの研究室の名前は「調和系工学研究室」で、人と機械・人工知能がお互い存在して初めてシステムとして意義があるということを表しています。英語ではHarmonius Systems Engineeringというのですが、海外で「それは何なんだ」とよく聞かれます。そのときは、「人と未来の機械の調和を考えていて、機械も技術の研究だけでなく、それで皆が良くなるにはどうすればいいか考えることも重要だ」と話すと、なるほどと理解してもらえます。
「AIは、トロッコ問題などの倫理的な問題が解けない」という議論がよくなされるのですが、そもそもこういった問題は明確な正解がなく、人が決めなくてはならないことです。しかし、アイデアや方法を考える際には、コンピュータが関わることでいろいろとクリアできることもあると考えています。人とコンピュータが調和しながら、より良い世界を目指すというのはそういうことです。一つひとつの応用で見ると、バラバラに見えるのですが、私たちとしてはディープラーニングなどの技術はもちろんのこと、考え方としては少し哲学的・社会的なことを含むところまで扱いたいというのが研究スタンスです。
― 産業や工業応用の分野では、人件費削減のため人を機械に置き換えていきたいという意向がありますが、そうではなく人と共に存在する機械について考えていらっしゃるのですね
川村 人の価値観においては、機械に置き換えられることよりも、機械に置き換わっても意味がないことの方が多いと思っています。例えば、人との雑談はコンピュータと話せば満たされるかというと、そうではありません。以前シアトルにAmazon GOの店舗ができて話題になりました。Amazon GOは品物をカメラが認識しているので、レジを通さずにそのまま外に出られます。これだけ聞くとAmazonの技術で店舗が無人になるのだ、と思いますよね。実際に行くとレジは無人ですが、各コーナーに人がいて「今日は何をお求めですか?」と客とコミュニケーションをとって商品をリコメンドする専門の方がいます。レジの人が要らなくなったから無人になるのではなく、「人が対応する意味があるところ」にリソース配分が変わっていくのです。人間社会全体ではそうなった方が、コミュニケーションが豊かで温かみがあるものになりますので、AIと人との関わり合いとしては望ましいと思っています。(後編に続く)
【5】第2回「Sapporo mirAI nITe」
札幌は昔も今も、これからのミライもITの本場でありたい。
そんな想いから本年度はたくさんの情報をお伝えするため、さっぽろのITの「イマ」と「ミライ」を知る、全8回の「Sapporo mirAI nITe」が予定されています。
各セッションでは、AIやAR/VRなど先端技術やユニークなビジネスアイディアを持つ企業と札幌市における様々なITの取り組みを紹介します。
その第2回目の配信が12月1日(水)から始まりました。(https://www.youtube.com/watch?v=ZeErlSSz9bc&t=1924s)
第2回目は川村教授がファシリテーターを務め、ゲストに株式会社インターパーク 代表取締役社長 舩越 裕勝氏、株式会社テクノフェイス 技術開発部ゼネラルマネージャ 丸山 哲太郎氏、株式会社バーナードソフト 代表取締役 瓜生 淳史氏、聞き手に北海道コカ・コーラボトリング株式会社 成長戦略策定室室長 三浦世子氏をお迎えし、北海道が抱える課題と「課題解決」のためのITの活用について語られました。
テクノロジーを使った事業を行っているゲストの皆さんによる、ビジネス目線からのお話しを伺うことができましたので、メルマガでもぜひご紹介したいと思います。
【デジタルの力で課題「解決」先進地域へ】
川村 本日ディスカッションをするにあたって、課題先進地域と呼ばれる北海道が抱える課題を、IT、IoT、AIでビジネスをされているゲストの皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
北海道では地域に起因する問題、経済に起因する問題があります。
地域に起因する問題を考えていくと、まず広いゆえの問題。都市間の移動が大変になるので、物流や災害が起こったときの対策など、いろいろなところで北海道ならではの制約があります。
また、北国ということで冬が長い。雪が降るので交通インフラに関しても非常にたくさんのコストがかかっています。
経済に起因する問題は、私の大学なんかでも問題になっていますが、若い層が道外に出て行ってしまいます。
札幌はまだですが、北海道の地方都市の過疎化が問題になっています。人工が減少すると、都市機能を維持していくのが非常に難しくなっていくので、全国と比較して人口減少が10年くらい進んでいるんではないかと言われています。
このような中、北海道の状況を嘆いていても仕方がないので、このような問題を逆手にとって、もっと魅力を高める方法、もしくは新しい産業を生み出す力にできないかといろいろな提言がされています。
2030年に向けた6つの目標の一つとして、今回のディスカッションの大きな課題にもなると思いますが、「デジタルを活用した連携による地域づくり」がありますので、「課題解決」のための情報技術の活用で何が考えられるのかということをディスカッションしていきたいと思います。
船越 インターパークではクラウドサービス、インターネットをつかったツールを提供するようなことをずっとやってきています。
北海道といえば、やっぱり食と観光なのかなと思っているので、そこに活用できるといいのではと思っています。
特色として雪が降るとか、どちらかというと生活の中でITを使うことが多いのかなと思っていて、そういった解決に使えるツールが良いのかなと。
あと、競争力をあげるためのツールが必要かなと思っていて、いかに新しいものを取り入れるかといったマインドを持つことが必要と川村先生のお話を聞いて思いました。
川村 北海道では一次産業が盛んだけれど、それだけではなかなか食べていけない。ブランディング化を考えても、北海道はまだまだできるんことがあるんじゃないかなと思っています。
ブランディングを発信していくと考えたときに、昔ながらのテレビに取り上げてもらうんじゃなくて、今だとYouTubeなど個人の力で発信してブランディングしていって価値を上げていく。
そうすることによって、違った形での独自化ができるんじゃないかなと思ったりするので、そういったところでITがうまく使えるといいですよね。
船越 コラボできるようなものがあるといいですよね。
川村 船越さんがやっているビジネスの中で、そういうところで使える、武器になるようなものや、農家さんを助けることになるツールやアイディアはありますか?
船越 私たちは事業をやっている方のソリューションで、農業にこだわったものではないのですが、使い道はあると思いますので、身近な悩みを解決することに貢献していきたいと思っています。
川村 船越さんのところでは、いわゆる事業者向けのデータ処理やオペレーションの自動化、情報整理のようなサービスを作られているので、それを使って農家の方が自分でAIをつくるのは難しいけれど、うまく組み合わせてその手間を効率化したり。自分が抱えている顧客に案内をどうやって出すとかは、たぶんやられているサービスで自動化できますよね。
船越 まだ実績はないんですけど、北海道ならではの産業に生かしていけるようのやっていきたいなと思っています。
川村 テクノフェイスさんは、今日の課題についていかがでしょうか?
丸山 弊社はAI+ITを提供できるところを特徴としている会社です。
私は地方でも東京でも変わらないだろうと思って、札幌にきました。地方の再生を信じていて、非常にチャンスだと思っています。
北海道には移住したいと思う魅力があります。しかも東京と同じ仕事ができる。
AIで北海道をどう盛り上げていけばよいのかというと、AIで必要なものは二つあって、一つはデータ。
もう一つは、AIで何ができるかという理解、日常に密着したものを理解していただくことが必要だと思っています。
北海道はスケールが大きいのでデータが豊富だと思います。
もう一つ理解というと、除雪にコストをかけないといけないなど、北海道ならではの問題があります。
このような身近なところでもAIを使っているんだよということを少しずつ広めていくことで、北海道の認知が広まっていけば、魅力のある人が集まって貢献していけるのかなと思います。
川村 GoogleやAmazonなどの大手がつくっているAIでできることはどんどんやればいいですけど、それではうまくいかないことがあります。
ここで考えていくのは、地域に特異的な問題をどう解決してくのかと、僕らでつくっていかないといけないAIというのもあると思うんですよね。これをどうビジネスになるようにつくっていくのかということを考えながら、事例をつくっていく必要があるのかなと思ったりします。
続いて、実際に北海道でIotを含めてやっているバーナードソフトさんにも伺っていきたいと思います。
瓜生 得意な分野はAIとブロックチェーンです。ワクチンパスポートを作ったり、AIで音の監視システムを作ったりしています。
今までは本州に行ってお仕事をいただいていましたが、コロナ禍で一回も実際に会うことなく、打ち合わせをしてシステムを納品しています。
Zoomだけで仕事ができることに驚いていて、北海道にいることがどちらかというとマイナスのイメージでしたが、しっかりした技術があれば本州、全世界を相手に勝負できる。10年前は社会インフラが整っていなかったけれど、今、Zoomなどで仕事ができるということは非常にチャンスだと思っています。
札幌で仕事をするというのは、自然があるので息抜きというかクリエイティブな環境には非常によいと思っています。
コロナを機に北海道、札幌が本当の意味でやっていけるという感じが出てきたので、これからいろいろなことをやっていきたいなと思っています。
川村 コロナでオンラインがあたりまえになったので、北海道の良さを生かしながら世界にビジネスを発信していくことが可能になってきたということですよね。
三浦さん、色々聞いてみて深堀してみたいとか面白そうと思ったこととかありますか?
三浦 私たちのような製造業メインでやっている企業は、どの企業がどのようなソリューションをもっているのか、HPに事例などが載っているんですが、なかなかわからないんです。
難しくてわからないという部分を私を含め、視聴者の皆さん持っているんじゃないかなと思います。
AIにはデータと理解と言われているけれど、理解という部分で分からない人が分かっていけるような仕組みになっていくと良いですよね。AIを使っていきたいと思っている人が、もっと企業の中にもいると思うんです。
川村 私は北海道大学なので札幌を中心に活動をしていますが、東京に行くことも多くて、その中で感じるのは、北海道のIT企業の発信力や、理解してもらいたいというアピール力はすごい課題だなと思っています。
三浦さんのように北海道で活動している企業の方から見ても、何をやっているのか伝わってこないという特徴が北海道の企業にはあるのかなと感じていました。
この先課題を解決していくためには、地域でどういうことができるのか、ITを使ってどういうビジネスモデルにのせていくのか。皆で力をあわせるといった地域ネットワークをどのようにつくっていくのか。
その二つが課題になっていくのかなと思いますよね。
三浦 わからない人でも、課題を解決したいと思っていることがたくさんあって、こういうことをやりたかったらどこに相談してらいいんだろうといったことが、ネットワーク化していけると非常に助かりますというお願いのようなお話でした。
川村 このミライナイトは北海道の課題を浮き彫りにしていって、その後につなげるためにこのようにディスカッションをしているので、そこの解決方法を考えていきながらネットワークを作っていけたらいいですよね。(終)
【6】人工知能・ディープラーニングNEWS
★多様な架空人間プレイヤーをパートナーにして学習するDeepMindの「架空協力プレイAI」とは?
★テキストだけで、AIが3Dモデルを自動生成 米Googleなどの研究チームが開発
★PayPayの大規模還元キャンペーン、成功の裏に緻密なデータ活用あり 個人情報ゼロでも分析できる秘訣は?
★StackOverflowからのコピペをやめろ。今すぐにだ。
★年末年始に振り返る 2021年の人工知能10大トレンドと必読論文
★「AI人材は十分確保できている」はたったの3.2%、「AI人材育成の予定なし」が約7割
★動く「機械学習帳」、東工大教授が講義資料を無償公開 回帰や分類のグラフをアニメーションに
【7】今週のAI俳句ランキング
AIが俳句をつくる「AI俳句」の普及を目指して、本研究室を事務局として2019年7月に設立されたAI俳句協会のウェブサイトでは、AIが生成した俳句を人が評価して、評価結果を集約したAI俳句ランキング(月間・週間)の集計を行っています。
今週のランキングをご紹介したいと思います。
1位 てのひらを隠して二人日向ぼこ
2位 くちびるに移民の夜の寒さかな
3位 春眠の中より君の歩み来し
すべて、本研究室が開発した「AI一茶くん」が詠んだ句になります。
「AI一茶くん」は1日1句投稿していますので、ぜひ俳句協会ウェブサイト( https://aihaiku.org ) もご覧ください!
【8】AI川柳
調和系工学研究室では、毎日新聞社「仲畑流万能川柳」や第一生命保険「サラリーマン川柳」を学習用の教師データとした「AI川柳」に取り組んでいます。
2020年3月までの1年間「NHK総合 ニュースシブ5時」にて、その週の話題のニュースのキーワードをお題に、バーチャルアナウンサー「ニュースのヨミ子」さんが詠んでいたAI川柳も、本研究室が開発した人工知能システムです。
多くの皆さんに楽しんでいただけるよう、2020年6月にAI川柳のTwitterアカウント( https://twitter.com/ai_senryu )を開設いたしました。
AIの中には詠んだ句の良し悪しはないためそれを良いと思うのは人間の側で、そう思うことで初めてAIの詠んだ句が意味を持つのではないでしょうか。
AIが詠んだ句に共感していただけましたら大変うれしく思います!
★お題「サンタ」(12月24日投稿)
子供にはサンタの気持ちわからない
クリスマスを盛り上げたくて、サンタのコスプレしたのに
すごい冷めた目で見てくる・・・笑
★お題「福袋」(1月5日投稿)
飼い猫が集まっている福袋
お正月といえば福袋
袋をたくさん手にして帰宅したら、うちの猫たちが集まってきた・・・
猫用おやつ福袋もちゃんと買っておいて良かった・笑
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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調和系工学研究室教員
川村 秀憲教授
山下 倫央准教授
横山 想一郎助教
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