2022年4月1日配信
こんにちは。
北海道大学調和系工学研究室(川村秀憲教授、山下倫央准教授、横山想一郎助教)です。
新年度が始まりましたが、皆さまお変わりなくお過ごしでしょうか。
調和系工学研究室ではこれまで多くの学生が大学院博士課程に進学し、博士として社会で活躍しています。
また、大学院課程博士だけでなく社会人博士も広く受け入れており、企業の方も調和系工学研究室で博士号を取得しています。
この度、本研究室で2000年以降に学位を取得した方々の記念銘板を作成いたしました。
ゼミ室に飾っておりますので、修了生の皆様はお近くにお越しの際はぜひお立ち寄り下さい。
では、本日もどうぞよろしくお願いいたします。
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◇ 本日のTopics ◇
【1】調和系工学研究室WHAT’S NEW
【2】アド・スタディーズ2022年春号「AIと人が調和する社会」前編
【3】第5回「Sapporo mirAI nITe」
【4】AI研究者と俳人 人はなぜ俳句を詠むのか 第三章
【5】調和系工学研究室関連企業NEWS
【6】人工知能・ディープラーニングNEWS
【7】今週のAI俳句ランキング
【8】AI川柳
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【1】調和系工学研究室WHAT’S NEW
★調和系工学研究室卒業生・修了生の言葉
3月24日(木)に調和系工学研究室の学生が卒業・修了いたしました。
今年度は2年ぶりに、学位授与式は対面での実施となりました。
それぞれの道に進まれる皆さんの新しい門出を心よりお祝い申し上げます。
4月からの新しいステージでの活躍を期待しています。
卒業論文・修士論文発表会での発表スライドを本研究室のHP(http://harmo-lab.jp/?page_id=7525) で公開しております。
研究内容にご興味がありましたら、下記フォームからお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ:http://harmo-lab.jp/contact
この春で調和系工学研究室を離れる学生たちが本研究室で取り組んだ研究内容や、後輩へのメッセージ、今後の抱負についてのそれぞれの思いをご紹介いたします。
[博士2年 幡本 昂平]この度、博士後期課程を短縮修了し、博士(情報科学)の学位を取得することとなりました。川村先生、山下先生、横山先生のご指導の賜物で、自分1人では達成できなかったと思います。
学部3年次に本研究室に配属されてから、修士・博士を通じて実データを用いたサービス設計に関する研究を行ってきました。実問題を研究の枠組みで捉えることについては、依然として難しいですが多少は習得できたと思います。
後輩のみなさんには、抽象的ですが、課題に主体的に取り組んでほしいと思います。調和系工学研究室における研究活動は、(一般的な研究室と異なり?)企業から困っている問題の相談を受けて開始される場合が多いです。研究開始時点では他人事になりがちで、気をつけなければ先生や企業の方から言われたことをするだけの研究生活になってしまいます。研究生活をただ辛いものにしないためにも、自分なりの問題解決の信念をもって研究するのがよいと思います。
2022年4月からは引き続き本研究室で博士研究員として研究に従事します。今後ともよろしくお願いいたします。
[修士2年 阿部 涼介]今年で修了になった調和系工学研究室修士2年の阿部涼介です。今まで研究室の先生方、先輩、同期、後輩、サポートの方々には大変お世話になりました。
研究としては、自分が興味のあった自然言語処理に関わる、ECサイトの商品の紹介文自動生成の方を行ってきました。商品は日本酒であり、テンプレートに日本酒の情報を埋め込むことで紹介文を生成していました。
研究活動で特に印象に残っているのは、2020年の北海道シンポジウムで表彰されたことです。オンラインでの学会の発表が初めてということもあり、上手くいくか不安はありましたが、先生方と先輩の手厚いサポートがあり、発表を無事に達成でき、さらに表彰されたということで非常にうれしかったことを覚えています。
今後の抱負ですが、自分はゲーム業界に進んだために一旦人工知能とは離れますが、今後どんどんゲームにも人工知能は活用されていくので、その際には研究室で学んできたことを存分に生かしていきたいと思います。
最後に、研究活動においてお世話になった皆さま本当に今までありがとうございました。
[修士2年 織田 智矢]私は分散深層強化学習を用いた渋滞解消に関する研究に取り組みました。
研究はとにかく苦難の連続でした。自分の考えを正論で否定されたとき、何も言い返せず自分の無力さを痛感しました。しかし、その分成長できたと思います。
研究室の学生間は非常に仲が良く、研究の息抜きに一緒に遊んだり、深夜まで作業するときは皆で夜ご飯を買いにセイコーマートに行ったりと、楽しく過ごすことができました。
学部・修士の3年間、大変お世話になりました。
[学部4年 細川 万維]献立の食材の使いきりを考慮することにより家庭からの食品ロスを減らすことを目指した献立表提案システムの開発に関する研究を行いました。
4年生になってすぐに企業とのミーティングに参加することになったときはとても緊張しましたが、それから1年を通して企業とのミーティングに参加することで問題解決に関する取り組み方などを学ぶことができました。
研究でたくさん助言をいただいたことはもちろんですが、私が本当にたまに研究室に行ったときに話しかけていただいたことがうれしくて印象に残っています。
オンラインでなかなかコミュニケーションがとりにくいことが多いかと思いますが、調和系工学研究室の先生や先輩方を信じて頼ることで研究がうまく進むようになると思います。
社会人になっても大学での学ぶ姿勢を大切にして成長できるように努力を続けていきたいです。
★研究室に関連する企業・ベンチャーのニュース
『トヨタ自動車が調和技研と共同開発したAIエンジン導入について日本経済新聞にて紹介』
3月24日(木)の日本経済新聞にて、株式会社調和技研と共同開発したAIエンジンをトヨタ自動車株式会社が秋にも導入することを取り上げていただきました。
変速機(トランスミッション)の組み立て時に不良品をみつけるもので、13工程について共同開発AIによる不良品検知を試験導入したところ、3~4カ月の間に見逃し事例が1度も起きていないという実績です。
変速機の不良品検知AIには一般には1万枚程度の画像が必要ですが、わずか100枚程度の画像で判別を可能にし、時間やコストを大幅に抑えた開発につながりました。
日経新聞
[札幌の調和技研がトヨタとAI開発、変速機不良品を検知](お読みいただくにはログインが必要となります。)
[株式会社調和技研]
『AWL、サツドラ、サイバーエージェント開発「リテールコネクト」が日本経済新聞にて紹介』
3月24日(木)の日本経済新聞にて、AWL株式会社、株式会社サッポロドラッグストアー、株式会社サイバーエージェントの3社が開発した小売向けの広告プラットフォーム「リテールコネクト」について取り上げていただきました。
AWLが開発したAIカメラを使い、来店客の属性をAIが識別、店内に設置したデジタルサイネージ(電子看板)で最適な広告を流します。
24日は、調和技研とAWLの記事が仲良く隣に並んでいて、嬉しい限りです。
取材してくれた日経の記者さんにも感謝です。
まだまだこれからだと思っていますので、皆さま応援をどうぞよろしくお願いいたします。(川村 秀憲)
日経新聞
[サツドラなど3社、AIを使った販促サービスを開発](お読みいただくにはログインが必要となります。)
[AWL株式会社]
『AWLインド子会社設立について日本経済新聞にて紹介』
3月29日(火)の日本経済新聞にて、AWLのインド子会社設立について取り上げていただきました。
2018年に設立した研究開発拠点「AWL Vietnam」に続く海外2拠点目として、グローバル研究開発を強力に展開すべく、Amazon、Googleをはじめとする世界各国のIT企業やスタートアップの研究開発中枢拠点が集積し、「インドのシリコンバレー」と称されるバンガロールに現地法人、「AWL AI INDIA PRIVATE LIMITED」の設立に至りました。
オフィスはインドの3000を超える主要IT関連企業が加盟する団体、NASSCOM (National Association of Software and Services Companies)が運営するインキュベーション施設内、Center of Excellence IoT & AI(Nasscom CoE)に設置。
優秀なIT人材がインド全土から集まるバンガロールにおいて、優れたAI人材の採用強化を押し進めると共に、最先端の次世代技術の研究開発を推進します。
日本国内で活躍する多様性溢れるメンバーとも刺激し合い、連携を深めながら、エッジAI技術の分野で新たなイノベーションの創出と、研究開発体制の構築・現地事業基盤の確立をスピード感をもって実現し、インドにおけるエッジAIソリューションカンパニーとしてのポジション獲得を目指します。
AIカメラ開発を加速していきますので、応援をどうぞよろしくお願いいたします。(川村 秀憲)
日経新聞
[AWL、インド子会社を設立 AIカメラ開発に弾み](お読みいただくにはログインが必要となります。)
[AWL株式会社]
【2】アド・スタディーズ2022年春号「AIと人が調和する社会」前編
吉田秀雄記念事業財団が季刊で発行する研究広報誌「アド・スタディーズ」にて、川村教授のインタビュー記事を掲載いただきました。
「アド・スタディーズ」はマーケティング・コミュニケーション、その周辺領域に関する内容を取り上げ、広告・マーケティング関連の研究者や実務家を中心に配布されています。
インタビューの中で人間と技術が調和したあるべき姿について、川村教授が研究者の視点から語っていますので、全3回に分けてご紹介いたします。
4,000人との名刺交換
――川村先生が人工知能(AI)の研究を始められたきっかけは何だったのですか。
川村 私の学生時代はちょうどインターネットが普及し始めた頃。海外の知人とチャットして感激したりして「自分も何かインターネット周りで面白いことができないかな」と思ったことが一つあります。
もう一つのきっかけは当時、IBMのコンピュータ「ディープブルー」がチェスの世界チャンピオンを負かしたことでした。当時は「人間が機械に負けた」という悲観的な論調が多かったのですが、機械といっても人が作ったプログラム。つまりチェスでは世界チャンピオンよりはるかに弱い人たちが作ったプログラムが、最強のトップに勝ったわけです。そこで「AIを活用し進歩していくことで、人間の限界を超えていけるはず。これは人類にとっての明るい希望じゃないか。そういう研究をしたい」と強く感じて、今の研究室に入りました。
その後は同じ研究室で博士課程から助手、教授まで進み、30年近く一貫してAIの研究を続けています。
――先生の研究室では、外部との共同研究に積極的に取り組んでおられますね。
川村 はい、その理由の一つは研究資金を得るためです。大学での研究費用は主に文科省の科学技術研究費(科研費)を当てることが多いですが、採択率は申請数の10%ぐらい。プロポーザルを毎年出し続け、運よくそれが「当たる」と研究を進められる。私は「自分たちの研究活動がそんな他人任せである状況はいかがなものか」と思い、補助金以外に研究資金を得る方法を探し、企業との共同研究に行き着きました。
今は常時5、6件、多いときで10件ぐらいの共同研究を行っています。それによって、補助金頼りのときより格段に安定した研究室運営ができていると思います。
もう一つ、AIという世界的に競争の激しい分野で、大学の中で研究しているだけでは、Googleなど世界最先端の研究者たちが集まる研究機関には勝てません。AIの場合、研究成果はソースコードまで公開されていることも多く、私たちもGoogleの作ったディープラーニングのプラットフォームをダウンロードして使っています。そして大学には自前のビッグデータはないので、研究用の公開データを使うことも多くなります。
そうすると結局オープンなソフトとオープンなデータを使って、そこに少しだけ自分たちの味付けをするという研究になってしまうのです。
大学は現場を持っていませんが、企業には現場があり、困っている課題があります。
私は「これからAIの研究はどんどん社会やビジネスに応用されていくはず」と予想していたので、企業と共同研究することで、そこからテーマとデータを得てはどうかと考えました。研究成果を企業に返せば、きっとそれを使ってくれるでしょう。
大学の研究では学会発表がゴールですが、それにプラスして社会実装を一緒にやっていく。そうすることで社会の役に立つと同時に、研究にもオリジナティを出していく。そういう構想の下に、戦略的に企業との共同研究を進めていきました。
――企業との接点をどうつくっていったのでしょうか。
川村 共同研究への流れを考えると、お互い全く知らないところから「お金を出すのでAIでこれを研究してください」となることはありません。まず戦略的に研究室を「売っていくこと」を考えました。
一般の人は大学の研究室で何をやっているのかなど知りません。研究室側も情報発信に不熱心です。有名な研究室でも、何年も前に学生が作ったホームページをそのままにしていたりします。「補助金を当てる」のに関係ないからです。
しかし企業と共同研究をするには、企業の人に研究室を見つけてもらい、そこで何をやっているかを知ってもらう必要があります。
そのためにうちの研究室では専門のスタッフを雇って、研究情報をホームページに集約し、それをメルマガで伝えたり、研究室紹介のパンフレットも制作したりしています。
ベンチャーの場合は経営者に直接会って「それじゃ何かやろうよ」で話が進むのですが、大企業はそうはいきません。直接会った人が「面白い」と思ってくれても、会社に持ち帰って上司に了解を得なければならない。でも又聞きではなかなか面白さが伝わりません。そこでホームページやパンフレットを見てもらえれば、「面白いことをやっている研究室だな」と感じてもらえる。説得のための武器になるのです。
私自身も積極的に講演したり、取材を受けたり、メディアに記事を書いたり、できるだけ大学の外に出て大学関係以外の人、分野違いの人たちと交流して、人脈をつくることを心がけてきました。
研究室でメルマガを送るのは主に会って名刺交換した人たちで、累計で4,000人ぐらいになります。メルマガをきっかけに「今度取材したい」とか「共同研究をお願いできないか」とか、時には「寄附したい」というお話を頂き、それによってスタッフを雇って情報発信しても“もと”が取れます。要は“投資して回収する”ということですね。
私は幾つかベンチャーの社外役員もやっていることもあり、研究室の運営も経営者目線で考えています。一般の大学の先生でそういう視点を持っている人は少ないかもしれません。元々は面倒くさがりな性格ですが、あえて外に出て、新型コロナ前まで年間700〜800枚の名刺交換をしていました。その人たちを会員登録してメルマガを送るのですが、その中から「一緒に何かやろう」となるのは年に数人、100人に1人以下です。だからこそ多くの人に会わなければいけないんです。
100万人にインパクトを
――最近では「研究は世の中の何の役に立つのか」が問われることが多い。大学にも社会との連携が求められるようになっていますね。
川村 大学では「どんな論文を出したか」が評価につながるので、みんな論文を重視するのですが、私は正直、論文発表だけを追求するということには興味はありません。工学はエンジニアリングであり、「世の中を良くすること」が出発点。そのためには、やはり学外に向けて活動の幅を広げていくべきだと考えます。学生諸君には「100万人に影響を与えられるような研究をしよう」と言っています。
研究が製品に採用され、その商品がたくさん売れたとか、サービスとして広く使われるようになったとか、ゴールはどんな形でもいい。人知れずやっていた研究が100万人の目に触れたら、若い人も「自分の研究が世の中の役に立っている」という実感を持てると思うんです。「そういう規模感で社会にインパクトを与えることを目指そう」ということです。
面白いもので、周りの評価を気にせずにやっているうちに、いつの間にか時代が私たちに追いついてきた感じですね。
――AIに俳句をつくらせる「AI一茶くん」は、広くメディアに取り上げられました。
川村 これは純粋にAIの研究を進めるために「人工知能に俳句を詠ませることはできるか」という課題から始まった研究です。共同研究ではありません。学生諸君がアルゴリズムを作っています。初期の頃には日本語として意味不明な文字列にすぎませんでしたが、今では人のつくったものと見分けがつかないレベルになり、Twitterで俳句をつぶやいたりしています。そこから派生して、「AIで川柳をつくる」という研究もやりました。これはNHKからオファーがあったものです。
NHKで開発した「ニュースのヨミ子さん」という、音声合成で原稿を読み上げるプログラムがあります。人造アナウンサーという設定で画像も制作され、ニュース番組の中に「ヨミ子のコーナー」が設けられていたんです。彼女はただ原稿を読むだけで、AIとして自ら情報発信する機能はありません。「ヨミ子さんにAIが作った情報を発信させたい」ということで、「ヨミ子さんが今週の時事ネタから、川柳を一つ披露する」という企画が立てられ、2019年3月から1年間、私たちのAIが川柳を提供しました。
NHK総合で全国に流れるニュースですから、1年間でそれを見た人は100万人どころではなかったでしょう。ただ川柳は俳句より難しくて、AIのつくった句のレベルは「それなり」でした(笑)。(中編に続く)
【3】第5回「Sapporo mirAI nITe」
札幌は昔も今も、これからのミライもITの本場でありたい。
そんな想いから2021年度はたくさんの情報をお伝えするため、さっぽろのITの「イマ」と「ミライ」を知る、「Sapporo mirAI nITe」が開催されました。
各セッションでは、AIやAR/VRなど先端技術やユニークなビジネスアイディアを持つ企業と札幌市における様々なITの取り組みを紹介しました。
その第5回目の配信が3月14日(月)から始まりました。(https://www.youtube.com/watch?v=hwgvQzE2YFM)
第5回目は川村教授がファシリテーターを務め、ゲストに一般社団法人日本ディープラーニング協会 事務局長 岡田 隆太郎氏、聞き手に北海道コカ・コーラボトリング株式会社 成長戦略策定室室長 三浦世子氏をお迎えしました。
「イマとミライのディープラーニングとは」と題して、日本ディープラーニング協会の活動や、ディープラーニング活用の現在地とこれからについてお話しを伺うことができましたので、メルマガでもぜひご紹介したいと思います。
― 人的投資が企業の持続的な価値創造の基盤に
岡田 テクノロジーでイノベーションを起こしていくんだという勢いのところで、重要なキーワードとしてのデジタル、地方創生というところでのデジタル田園都市構想というのがあります。人をどのように育てていくのか、人への投資・リスキルというところなんですよね。この部分を会社という単位でも見ていくよというお話があったのが、岸田総理の所信表明演説だったのかなと思います。
川村 成長のところは私もすごく大事だと思っています。最近、DXという言葉も流行っていて、この先どうデジタルを活用して生産性を上げていくのか。日本を成長させるためにイノベーションをどう起こしていくのか。これは言うのは簡単ですが、日本でももうお尻に火がついていると思います。
団塊ジュニア世代はおよそ190万人程度いますが、一方で去年の新生児は90万人を割っているんですよね。これを考えると、この先20年かけて人的リソースが減っていく中で、これまでと同じやり方をやっていくと、若い人たちは社会リソースを維持するのに2倍やらないと社会を維持できません。DX、イノベーションで生産性を上げるといっても、2倍効率化しても、今と同じ社会を維持するので手一杯。4倍、5倍効率化していかないと日本が成長するのは無理な状況になっています。
なんとなくイノベーションとかDXとか大事だよねという悠長なことは言ってられない。それくらいのことを本当は皆意識していかないといけないのに、我々の世代までは人口ボーナスが効いているので。ここから下の世代は全く違う感覚を持って社会に向かっているんだと頭に入れないと、成長とかイノベーションとかの大事さって言うのはわからないんじゃないかなと思います。
僕が最近意識しているのは、僕の2時間が若い人たちの1時間だと思わないといけないなということ。それから、今の20代はデジタルネイティブなので世の中に出てきたときに、彼らが考えているデジタルの使い方って、僕らでも100%理解できるかというと、理解できないこともすでにあると思うんですよね。
我々がそれを理解してリーダーシップを取るんだというのではなくて、成長とイノベーションに関しては彼らが出してくるいろいろなアイディアや発想を邪魔しないという視点も大事なんじゃないかなと思います。
岡田 本当にその通りですよね。僕らというようにくくってしまいますが、この団塊ジュニアがどんどん高齢化していく中で、僕らが老害にならないために、早くグルグル回るターボが効いた社会を、デジタル使ってつくらないといけないなと思います
― 地方にこそ良い産業やビジネスがあるので、そこでのDXがどんどん進んでいくべき
岡田 産業活動促進というところに加えて、行政の中のDXというものもあると思いますので、そのあたりのお話も出来たらいいなと思っています。
川村 ここのところはすごく大事だと思うんですよね。東京と比べて地方都市のほうが人口減少の中でいろいろと効率化していかないと、社会を維持できないという問題がかなり早く来ます。
そんな中で行政をどう維持していくのかという問題、北海道だと観光や農業や水産をどう維持していくのかと、そういうところからDXを導入していくことが必要だと思います。
でも一方でそこがビジネスになりやすいか、放っておいて促進されるかというと難しいと思うんですよね。そうするとディープラーニング協会さんや行政札幌市が手を組んで、先行的な事例をつくっていったり、サポート体制をつくっていったりすることが大事なんじゃないかなと思います。
岡田 各自治体で取り組んでいることが異なるんですよね。いろいろなアプローチの仕方があると思いますが、ここから何年かが勝負だと思いますので、手を取り合ってご一緒できればなと思っています。
― ディープラーニングの活用とこれから
川村 この先、社会がものすごい勢いで変わっていくと、我々がITからAIという武器を手に入れて、これをどう上手に使っていくのかはすごい重要ですよね。
研究としてのAIというものもありますが、社会を支えるためのAIというのももちろん重要だと思います。今まで大学や研究機関で担えなかったところを、日本ディープラーニング協会さんが社会の中で担っていく。必要なタイミング、状況でまさに設立されたんだということがよくわかります。
岡田 リアルで結ばれているところこそ、伸びるチャンスがあるんじゃないかと思っています。
川村 例えばディープラーニングをベースにオープンAIとか、プログラミングするAIなんかも発表されています。これまでだと画像認識や自然言語でちょっと変わったことができるというイメージでしたが、プログラミングまでできるようになると、ソフトウエアのつくり方を根本から変えていく可能性もありますよね。
岡田 ソフトウエアがソフトウエアをつくる。すごいですよね。
川村 ディープラーニングの応用ということと、日本の状況変化というところでいくと、旧来の価値観の中でこれを上手に使おうと思うと、なかなか難しい。それくらい破壊的で新しいツールなので、ゼロから応用を考えていって、新しい仕組みをつくっていくということもやっていかないと社会を変えていけないと思うんですよね。
そんな中、ディープラーニング協会さんのスタートアップの取り組みや高専の取り組みというのは、札幌市も同じですが、最初のところは大きな成果にならないかもしれませんがここのところをやっていかないと、日本は立ち行かなくなるのではないかという危機感があります。
岡田 全く同意です。お互いが同じレベルで知っていると話が早いんですよね。こういうことができるんだとわかっていれば、そこの部分の接続があっという間にすみますから、そこを整えていくと一気に進むのかなと思います。
昔のものをそのまま変えようというのではなくて、高い視点で全体の業務を見ることが、この道具の使いどころじゃないかな。
川村 ディープラーニング協会さんも考えられていると思いますが、例えば小学生とか小さい子供たちへの教育。子供たちはやりたいことがいろいろあると思うので、興味がある子供たちに、大人向けの教材ではなくて、もっと子供でもわかる範囲でできることっていろいろとあると思うんですよね。将来、この分野を支えていく人たちを育てていくというのも重要なんだろうなと考えています。
岡田 ぜひやりたいですね。
川村 例えばゲームのキャラクターをつくって、ディープラーニングを使って強いキャラクター育てて戦わせたり。
岡田 めちゃくちゃ学習させてくる子とかいるんでしょうね(笑)。
川村 話が本当に尽きないので、ぜひ第2回をやるということで今日は終えたいと思います。(終)
【4】AI研究者と俳人 人はなぜ俳句を詠むのか 第三章
3月20日にdZERO社より、『AI研究者と俳人 人はなぜ俳句を詠むのか』が出版されました。
俳句を詠むときに人の脳の中では何が起こっているのか。
AI研究者である川村教授と若手俳人の大塚凱氏が、本書で知能とは何か、人間とは何かについて語っています。
本メールマガジンの読者の方に各章のさわりをご紹介していきますので、続きが気になる方はぜひ本書( www.amazon.co.jp/dp/490762350X )をお手に取ってお読みください!
[第三章 教師データと逸脱 「AI一茶くん」の俳句を鑑賞してみる]
本歌取り、パロディを見つける
大塚 「AI一茶くん」でつくった句をいくつか読んでみます。ここでは、たんに「おもしろい」「よく出来ている」というのではなく、人間が意図的にことばを操作してつくりそうな句、何らかの趣向を凝らした句を取り上げてみます。具体的には、本歌取り・パロディ、駄洒落・語呂合わせ、韻を踏むなどです。「AI一茶くん」の「意図」から生まれているのではないと思いますが、「そう読める」句は見つかります。では、まず、本歌取りから。
ひとの世の遊びのれんの白絣 AI一茶くん
〈ひとの世の遊び〉の部分は、次の句と同じです。
ひとの世の遊びをせんと雪女郎 長谷川双魚
〈雪女郎〉は雪女のこと。この白さが〈白絣〉にオーバーラップするように読むと楽しいです。〈のれんの〉と〈をせんと〉で韻を踏んでいるところにも、ちょっとパロディ的な遊び心を感じます。
句の構造はちがっていて、双魚の句が、上五・中七の行為の主体〈雪女郎〉を下五にもってきて、いわゆる「一句一章」、切れを生じさせずに一気に詠んでいるのに対して、「AI一茶くん」の句は、〈ひとの世の遊び/のれんの白絣〉と切れています。名詞節を二つぶつけた構造です。〈ひとの世の遊び〉の一つの象徴として、紺色ではない〈のれんの白絣〉がある、というような解釈になるかもしれません。おまけに「句またがり」と呼ばれるかたちで、中七の途中に文節の切れ目があります。
川村 この二句はぎりぎりのところから出てきています。プログラムには、レーベンシュタイン距離(編集距離)という考え方を使っています。二つの文字列ものが、どのくらい離れているかを示すもので、「AI一茶くん」の場合、俳句という文字列で、何文字を替えると、もう一つ別の文字列になるのかということで距離を測っています。少ない文字数で別の句になる場合は、似すぎている、いわゆるパクリになってしまうので、あるレベルを超えて近い句は、句作から弾いています。
大塚 なるほど。本歌取りでもパロディでもなくパクリ、という事態を防ぐ措置ですね。
川村 教師データには長谷川双魚の〈雪女郎〉の句が入っていますので、〈ひとの世の遊び〉という組み合わせが出現してもおかしくはありません。ただ、パクリを防ぐ閾値の設定が五文字だったので、このケースはぎりぎりパクリではないと判断されたのですね。
大塚 たまたま似すぎてしまうことは、人が俳句をつくっていても起こります。そうした「事故」の確率は「AI一茶くん」のほうが低い。それでも、起きるときは起きるのですね。この句は、本歌取りとしておもしろい句になっています。
性愛モチーフへのアプロー
大塚 恋愛の句について、まえにすこしお話ししましたが、性愛寄りの句、性行為を匂わせる句、いわゆる「バレ句」を探してみました。
逢引のこえのくらがりさくらんぼ AI一茶くん
〈さくらんぼ〉はうまくフィットしたと思います。食べものであること、それから形状から、唇や声などを連想させますし、恋の関連性もあります。
ゆづられて月下美人にふれ申せ AI一茶くん
〈月下美人〉はサボテンの一品種で、字面からも見えるように、きれいな花です。擬人化されたネーミングで、花といいながら、人、それも美しい女性を連想させます。そんな月下美人の咲いている場所に何人かの人がいるのでしょう。譲られて触れる機会を賜ったということで、気品のあるエロチックな句と見ていいと思います。
強く感じる男性視点
大塚 「AI一茶くん」の句を読んでいると、男性視点を強く感じました。これは、読んでいる私に一種のバイアス、つまり私自身がシスジェンダー男性でヘテロセクシュアル、すなわち性自認も性指向もマジョリティーの男性であるというフィルターがかかっているせいなのか、あるいは、教師データのせいなのか。そこはわかりませんが、「AI一茶くん」に男性的な印象を抱いたのは事実です。
川村 教師データに関しては、既存の俳句をとにかく集められるだけ集めるという方針だったので、句の作者の属性は情報として入っていません。男性か女性かもわからない。でも、男性視線に偏っているなら、それはサンプルの偏りを反映したものかもしれません。つまり、男性のつくった句の教師データに占める割合が高いので、男性視線の作風になる。・・・(「教師データのバイアス」「『ことば遊び』や『押韻』は可能か」「固有名詞は得意」「無駄と捉えてしまうリフレイン」「弾いてしまう『字余り』」「評価のばらつきは小さい」「添削はAI、推敲は人間」、試し読みができるKindle版も発売されていますので続きが気になる方はぜひ!( www.amazon.co.jp/dp/B09V6N2N97 ))
【5】調和系工学研究室関連企業NEWS
★フュージョン株式会社、第36回全日本DM大賞にて2作品が金賞受賞!
★光ファイバー伝送容量を6倍に拡張、Beyond 5G/6Gに向けてKDDI総研が実験成功
【6】人工知能・ディープラーニングNEWS
★ウクライナのゼレンスキー大統領が降伏するフェイク動画をMetaが削除
★ウクライナがClearview AIの顔認識技術を利用開始、ロシア側の戦死者や工作員の特定に活用か
★NEC、Web会議の音声をリアルタイムでテキスト化 自由会話の認識精度は平均94% 議事録作成の時間を大幅削減
★ピクシブ、漫画の自動英訳システムを一般提供 個人でも1P最短30秒で翻訳 月額3000円から
★AIが生んだ最高に“やみつき”になる「おにぎりせんべい」発売 8万2000個のレシピを学習
★AIが数千年にわたって損傷で失われていた古代ギリシャ碑文の文章復元を支援
★時代を先取りし過ぎた『がんばれ森川君2号』『アストロノーカ』のゲームAIはどのようにして開発されたのか?:懐ゲーから辿るゲームAI技術史vol.4
★『ONE PIECE』のルフィが「AIルフィ」となって受付業務をおこなう実証実験を開始
★When it comes to AI, can we ditch the datasets?
★東京大学ら、人間の睡眠パターンは16種類に分類できると発見 約10万人の睡眠データを解析で
★アマゾン、「AWS for Games」を立ち上げ–ゲーム業界向けサービス
★AIラッパーからAIヒロインまで、自然言語処理の可能性:月刊エンタメAIニュース vol.27
★「CPU最強 vs. GPU最強」──進化する将棋AIのいま プロに勝利した「Ponanza」から「水匠」「dlshogi」まで
★たった約1分で人物の写真をAIが高画質化 ポートレート写真や遺影に対応
★国内初。キーワードから約6秒で文章生成ができる 日本語の文章執筆AI ”ELYZA Pencil”を一般公開
【7】今週のAI俳句ランキング
AIが俳句をつくる「AI俳句」の普及を目指して、本研究室を事務局として2019年7月に設立されたAI俳句協会のウェブサイトでは、AIが生成した俳句を人が評価して、評価結果を集約したAI俳句ランキング(月間・週間)の集計を行っています。
今週のランキングをご紹介したいと思います。
1位 連翹の黄を点じたる夕日かな
2位 生涯に一度の別れ曼珠沙華
3位 北窓を塞ぎし夜空鳥帰る
すべて、本研究室が開発した「AI一茶くん」が詠んだ句になります。
「AI一茶くん」は1日1句投稿していますので、ぜひ俳句協会ウェブサイト( https://aihaiku.org ) もご覧ください!
【8】AI川柳
調和系工学研究室では、毎日新聞社「仲畑流万能川柳」や第一生命保険「サラリーマン川柳」を学習用の教師データとした「AI川柳」に取り組んでいます。
2020年3月までの1年間「NHK総合 ニュースシブ5時」にて、その週の話題のニュースのキーワードをお題に、バーチャルアナウンサー「ニュースのヨミ子」さんが詠んでいたAI川柳も、本研究室が開発した人工知能システムです。
多くの皆さんに楽しんでいただけるよう、2020年6月にAI川柳のTwitterアカウント( https://twitter.com/ai_senryu )を開設いたしました。
AIの中には詠んだ句の良し悪しはないためそれを良いと思うのは人間の側で、そう思うことで初めてAIの詠んだ句が意味を持つのではないでしょうか。
AIが詠んだ句に共感していただけましたら大変うれしく思います!
★お題「節電」(3月22日投稿)
節電を教えてくれた犬を見る
節電を意識していつもより少し暖房の設定温度を下げる
我が家の場合は室温を敏感に察知する愛犬が、気づくと猫に寄り添っています
普段はお互い干渉しないのに・笑
★お題「卒業」(3月24日投稿)
卒業の後の気持ちは分からんが
今日は北大の卒業式
卒業後に実家を離れる学生さんも多いと思います
卒業を嬉しく思いつつ、家族が家を離れる寂しさを明日からは感じるのかも・・・
★お題「春」(3月28日投稿)
春が来て幸せになる夢の中
雪解けが一気に進み、札幌にも春がやっと訪れました
我が家のネコも、陽だまりの中でお昼寝を満喫しています!
★お題「前進」(3月29日投稿)
一歩ずつ前進したら後悔し
同居ネコのことが大好きなうちのイヌ
うとうと日向ぼっこしているところにそーっと近づいて・・・
いつも後悔しています・笑
★お題「ポケット」(3月30日投稿)
ポケットに入れると寂しそうな犬
散歩途中のおやつタイム
残りのおやつをポケットにしまうたびに、ものすごく悲しそうな顔をするうちの犬
最終的に全部食べれるのになぜ?笑
【ご寄附のお願い】
人工知能によるイノベーションでより素晴らしい世界を実現することが、私たち調和系工学研究室の使命であると考え日々研究に取り組んでいます。
大学での研究活動には、研究に必要な機器の整備のほかにも、学生の学会への参加や論文投稿など研究費が欠かせません。
私たちの取り組みにご賛同いただけ、応援のご寄附を賜れましたら大変心強く、研究を続けるうえで大きな励みとなります。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
調和系工学研究室 教授 川村 秀憲
[北海道大学奨学寄附金制度について](本学への寄附金については、税法上の優遇措置の対象となります)お問い合わせ先:http://harmo-lab.jp/contact
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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調和系工学研究室教員
川村 秀憲教授
山下 倫央准教授
横山 想一郎助教
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